ゼミナール

「用と美」ゼミナール

モノ探訪 ③

粋でエコロジー
木だけで組み上げる江戸指物

2016年1月29日更新

美しい木目と研ぎ澄まされた端整な表情を持つ江戸指物さしもの
受け継がれてきた職人技で
釘を一切使わずに
100年愛用できる頑丈な家具をつくります。

シンプルな〝江戸好み〟の和家具

指物は、金釘を使わずに板材を組み合わせてつくる木工和家具。指物という名称の起源は、「釘を使わずに木の板を指し合わせるから」とも、「物差しを駆使して精巧に組み合わせていくから」とも言われています。指物の歴史は平安時代の宮廷文化までさかのぼることができます。

江戸時代、幕府は政治の中心を江戸に移し、多くの職人を全国から呼び寄せました。京都から指物師がやってきて江戸に指物が伝わります。京都の指物が朝廷用や茶道用中心で装飾的なのに対し、江戸指物は武家や商人、歌舞伎役者用で、小机、鏡台、小引き出し、箱、火鉢など暮らしの中の実用品として使われました。木目の美しさを活かしたシンプルなデザインは、江戸好みの〝粋〟を体現していると言えるでしょう。その端整なたたずまいは、どんなインテリアにもなじみやすく、近年では江戸指物を愛用する外国人も増えているそうです。

上左 木目が上品な引き出し箱。江戸指物で最も多く用いられるキハダ材でつくられている。
上右 縦格子が美しいタモ材の傘立て。
野点(のだて)の道具を入れる茶箱。タモ材の個性的な木目が印象的。立体になっても木目が連続していくようにつくられる。
明治以降、庶民も愛用

キハダの天板の中央に流れるように美しい木目を配した一人小卓。

東京の下町、蔵前(台東区)にある茂上工芸は大正元年(1912年)に創業。「昔から台東区と荒川区には指物職人が多かったんです。これは、入谷(台東区)など近くに材木屋があったからでしょうね」と三代目の茂上豊さん。

実用的な江戸指物ですが、江戸時代、いわゆる「八つぁん、熊さん」のような長屋住まいの町民たちには使われていませんでした。というのも、当時の庶民は持ち物が少なく家具は不要。夏冬用にそれぞれ二枚ほど持っていた着物も行李や茶箱に入れていました。

一般庶民に使われるようになったのは明治以降で、昭和30~40年代までは、多くの家で指物の家具が使われていました。箪笥や鏡台など婚礼家具の注文も多く、一昨年のNHK連続ドラマ「花子とアン」の主人公のモデルである村岡花子の友人で歌人の柳原白蓮の婚礼家具を、茂上さんの大叔父である茂上恒造氏が手がけたという記録が残っています。

現代の暮らしにも合うモダンな小物。手前から時計回りにペーパーナイフ、土瓶敷き、一輪指し、葉書入れ。

ケヤキ材の箸入れとタモ材の箸。小さな製品にも江戸指物の技術が活かされている。

目見当で精緻に仕上げる職人技

茂上工芸の細工場の壁には数えきれないほどの道具が掛けられています。指物で使う道具は主に、ノコギリ、カンナ、ノミですが、カンナだけでも100種類近くあるとか。つくる物や使う木のサイズで使い分けていきます。

指物には、数年から数十年乾燥させた木を使います。「例えば、これは伐採から40~50年経ったケヤキです。茶道具を入れる箱だから、新しい木はそぐわない」と、制作途中の材料を手に取る茂上さん。時間を経たケヤキは茶色になって深みが増し、何とも言えない味わいがあります。

細工場の壁に並ぶ指物づくりの道具。道具は使いやすいように茂上さん自身がつくる。

「指物づくりでおもしろいのは、二次元の板が三次元に変わっていくところですね」(茂上さん)

細かい部分を削るカンナ。
思わず「かわいい」と言いたくなる小ささ。

制作中の行燈。現代では電球を入れて使うため、細い木の内部に電線を通す穴を加工し、配線を見えなくする。こうした細かい細工も指物の技が得意とするところ。

最初に、つくる物に合わせて木材を切る「木取り」をし、カンナで削って表面を整える「木削り」を行います。次の「ほぞ」と呼ばれる凹凸の加工は指物で最も難しい工程で、1ミリ寸法が違っても板と板は組めなくなってしまうそう。しかも、ほぞは長さを計測することなく、適切な幅のノミを使いながら目見当でつくっていくというから驚きです。「この部分には、この(サイズ、形状の)ノミを使うという具合に決まっています。ほぞの大きさや位置は、全部等しいというわけではないんですよ。箱物であれば、両端に近い部分のほぞは、中央のほぞより間隔を小さめにしします。こうすることで強度が増します」と茂上さん。

ほぞを加工した後は板と板が直角に組めるように組手に丹念にカンナをかけ、45度の角度にしていきます。面取りをしてから組み上げ、木の表面をカンナで削って外部仕上げをし、やすりをかけて磨きます。生漆を木地に塗って布で拭き取る作業を10回繰り返す「塗り」の工程は漆職人が行うことも多いのですが、茂上さんは自分の手で行います。

使う木を必要な長さ、大きさに墨書きして切断。

ほぞ加工し、組手にカンナをかけて直角に組み上げる。

仕上げカンナで削った後の「磨き」の工程は、現代では一般的に紙ヤスリで表面を磨き上げるが、江戸時代同様に乾燥させた砥草(とくさ)で磨くこともある。砥草は今でも道端などでよく見られる濃い緑色の草。写真右は乾燥させたもの。

100年使える頑丈さ

薄い木材を組み合わせてつくる江戸指物ですが、その華奢でシンプルな姿からは想像できないほど頑丈です。「100年持ちます。釘を使わないので釘を打った物のように1点に力が集中せず、木が割れるということもなく丈夫です。表面が傷んでも、カンナをかければ美しい木目が甦りますし、物によっては組み直して調整することもできます。指物は、とてもエコロジーな家具なんですよ」

修復を依頼されることも少なくないという茂上さん。高齢の女性から、戦時中に空襲の中を背負って逃げたという大切な本棚の修復を頼まれて再生し、「とてもきれいになった、孫に引き継いで使ってもらいます」と、大変喜ばれたこともあるそうです。

茂上さんが先代から受け継いだ伝統的技法、「留型隠蟻組ほぞ(とめがたかくしありくみほぞ)」で加工された引き出し小箱。ほぞの形が蟻の頭部に似ていることからついた名称。組み上げると直角になり、組手はまったく見えない。

「第二次世界大戦中、祖父の兵次郎は、職人の命であるカンナやノミなどの道具類を土管の中に隠して戦火から守りました」と茂上さん。東京大空襲で兵次郎氏は亡くなったが、道具のおかげで二代目豊次郎氏はすぐに仕事を再開できたという。写真右の向かって左側のノコギリは兵次郎氏が遺した物で、茂上さんは刃を削りながら大切に使い続けている。

茂上工芸では、江戸指物の技や工程を直接感じてもらうために、細工場を一般公開している(要予約)。

Column

下町散歩と手づくり体験を楽しむ

茂上工芸では、「箸づくり」や「小物入れづくり」を実際に体験できる教室を開催(要予約。5人以上)。下町散歩がてら楽しんでみては?
茂上工芸:http://sasimono.ciao.jp/

周辺には他にもさまざまな手づくり体験ができるアトリエがあります。
台東区手作り工房マップ:
https://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/shigoto/jibasangyo/tedukurikobo/

茂上工芸 ギャラリー「杢柾庵(もくまさあん)」の看板。

厩橋からは風情ある屋形船とともにスカイツリ―の姿が。

三筋2丁目交差点の南東角に建つ「川柳発祥の地」碑。現在の蔵前4丁目に住んでいた里正柄井八右衛門が無名庵川柳と号し、初めて万句合(まんくあわせ)を興行。

取材:2016年1月
撮影:銭場千夏(株式会社フレンズ)

開校記念
特別講座住むことは、生きること。探検家 関野 吉晴氏

ようこそ、マリモリビングオープンキャンパスへ学長メッセージ 開校のごあいさつ