ゼミナール

「用と美」ゼミナール

モノ探訪 ①

「結ぶ」文化とともに
受け継がれてきた水引

2015年8月31日更新

今回探訪するのは、
その美しさで江戸時代から人気を博していたという
飯田水引です。
伝統的な形や用途に限らない、
現代ならではの新しいMIZUHIKIも生まれています。

現代の暮らしに求められる用と美を備え、海外でも注目

飛鳥時代、遣隋使の帰朝の折、隋国からの献上品に結ばれていた紅白の麻紐――これが、水引の起源とも言われています。日本で「結ぶ」という文化とともに現代に受け継がれ、冠婚葬祭や贈答など、さまざまな暮らしの場面で使われてきました。

水引というと、まず思い浮かぶのは祝儀袋ですが、最近では、ラッピングの飾りやストラップ、箸置きなど、現代の暮らしに合った実用的なモノもつくられています。

大手エアラインの国際線の箸置きや土産品として採用されたこともあり、紙が織りなす美しい品として海外でも注目されています。

上左から時計回りに、ラッピング用として人気の「梅結び」の飾り、金と白のコントラストが美しい箸置き、水引結びの基本「あわじ結び」の飾り、かわいらしいうさぎのストラップ。

飯田の女性たちの手で鮮やかにつくられる水引細工
「大橋丹治」

飯田市には、多くの水引会社があります。かつて飯田城があった場所に近い、市内箕瀬町の大橋丹治もそのひとつ。「初代は城に勤める武士で、飯田藩の殖産産業である元結(もとゆい)をつくっていました。この敷地の近くに配下の者を住まわせ、元結づくりを指導していたと聞いています」と、4代目の大橋迪夫さん。

 元結とは、日本髪を結う紐のこと。江戸時代、上質な紙の生産地だった飯田の元結は美しいと人気が高かかったそう。平成となった今でも、大相撲の力士の大銀杏や、歌舞伎役者のかつらに使う元結は飯田産です。
 元結同様、「紙を原料にし、扱いてつくる」という工程の水引製造が飯田で盛んになったのは江戸時代の元禄年間。当時から「飯田の水引は白くて色艶がよい」と評判でした。現在も全国の水引の70%を飯田で生産しています。

天竜川

飯田市内を流れる天竜川。
豊富な水に恵まれた飯田地方は、古くから良質の紙の産地で、それが水引づくりへとつながっていきました。

飯田産の元結。「鬼が引っ張っても切れないほど強い」という意味を名前に込めた「鬼引」(写真右)。江戸時代に飯田元結の改良・普及に努めた櫻井文七の名を冠した「文七御元結」は、大橋丹治の登録商標。

贈答品のラッピングや祝儀袋の意匠に使われる現代のモダンな水引細工。

同社の工房を覗くと、数人の女性たちがテーブルを囲んで作業をしていました。端整な「あわじ結び」の飾りが仕上がるのに、わずか数十秒。その手さばきは鮮やかです。

安価な外国製の祝儀袋や、儀式としての結納の減少で水引の需要が少なくなる中、同社では水引の可能性を探り続け、社内で出たアイデアを手作業で試行錯誤しながら新しい形で表現することに取り組んでいます。「どんなデザインにも、基本の『あわじ結び』を必ず入れるようにしています。縁起がいい『右を上にする』という形式も崩しません」と、水引職人の東谷信子さん。

時代が変わり、モダンなデザインになっても、日本人が大切にしてきた「結ぶ」という文化と、水引に込められた思いは変わることがありません。

水引の仕事を始めて12年のベテラン職人、東谷信子さん。
義理のお母様も水引細工の仕事に携わり、小学生の娘さんも見よう見まねで、
自然に「あわじ結び」などを覚えているそう。

「あわじ結び」の応用でつくる「梅結び」は、わずか1分足らずで完成。

流れる川のような水引を、繰り返し手で扱く
「野々村水引店」

旧市内から、ところどころに水田がひろがる松尾地区の野々村水引店へ。ここでは、飯田地区で唯一、水引そのものの素材である生水引を製造しています。工程は機械化されていますが、機械と手作業では質も染め具合も違うそう。いまだに「手で扱き、手で染め上げた水引がよい」という注文があるため、撚った水引を戻らないようにする「扱き」と、着色の工程を手作業で行っています。先代から手扱きによる生水引づくりを受け継いだ野々村義之さんは、ピンと張った長い水引を何度も往復して扱いていきます。作業場に張られた、流れる川のような水引を扱く風景を目にすると、「長く引くから」「つくるのに水をたくさん使うから」など、水引という名前の由来に納得します。

「神社仏閣や宮内庁に納める水引もつくっているんですね」と訊ねると、「私がつくるのは生水引までで、その先のことはあまり…。手で扱いた水引は結びやすいから、頼まれるのだと思います」と、野々村さん。気負うことなく、ものづくりに真摯に取り組むその姿に、清廉な水引に通じるものを感じます。

布糊とクレイ粉でつくった塗料を置き、鉄の棒と布ではさんで、強く扱いていきます。

長く張った水引を4往復。「しっかりと扱くことで、着色の際、色つきも良くなります」と、野々村さん。

PHOTO GALLERY

手で扱き、手で染め上げる~野々村水引店

Column

飯田市議会議場のシンボル、水引の「あわじ結び」

飯田市役所新庁舎の市議会議場には、邪気を払うとされる5色の特注水引を使い、「あわじ結び」で仕上げた装飾品がシンボルとして飾られています。飯田水引組合に加盟する職人さんたちが約150時間かけて完成させました。

取材:2015年7月
撮影:銭場千夏(株式会社フレンズ)

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