ゼミナール

「用と美」ゼミナール

エコで美しい人⑥

義母や祖母から教えられた
季節を感じ、物語がある料理が好きです

料理研究家 門倉多仁亜さん

2017年5月1日更新

人生初の田舎暮らしで、
生活に根付いた"食"を楽しむ門倉多仁亜さん。
今、伝えたい料理のこと、そして、
ドイツ流の美しい住空間を保つコツについてうかがいました。

門真さんのプロフィール

数年前から、鹿児島での暮らしを楽しまれています。

夫の親の介護の手伝いでよく帰省するようになり、自然ななりゆきで家を建て、暮らすようになりました。今は、月の4分の1ぐらいを鹿児島で過ごしています。

鹿児島で生活していると、季節をより感じることができます。周囲の自然はもちろんですが、食材でも強く感じますね。東京では、トマトもきゅうりもゴーヤも年中手に入りますが、鹿児島では違います。あるのは、そのときの旬のもの。料理をつくるにしても、東京なら、メニューを考えてから買いものに行きますが、鹿児島では、「大根があるから、今日はこの料理とあの料理をつくろう」といった感じです。これは、私にとっては目から鱗が落ちるようなことでした。料理って、こうして、あるもので自然につくっていくものなのだな、それが本来の姿なのだと、あらためて知ることができたんです。

亡き義母は、日々、そうやって料理をつくり、行事や季節に合わせて団子をつくり、という生活をしていました。今は義理の姉とともに、そんな暮らしを楽しんでいます。

主宰されている料理教室では、鹿児島やドイツの"おふくろの味"を
教えられているそうですね。

レストランの料理は美味しいけれど、私が「また食べたい」と思うのは、お義母さんに教えてもらった田舎料理と、子どものころドイツ人の祖母と一緒につくった料理。今、伝えたいと思っているのも、そうした料理なんですよね。でも、以前は違ったんです。きっと誰もが、かつて私がコルドンブルーで学んだような"ハレの日"に頂くような料理を知りたいに違いないと思い込んでいました。

それが変わったきっかけは、NHKのドイツ語講座でドイツ料理を紹介してからです。最初は、地味なドイツ料理に興味を持つ人などいないのではと思いました。でも、視聴者から「実際につくってみました」という反響があったんですよね。「毎週土曜日に祖母がレンズ豆のスープをつくってくれた」「ポテトパンケーキはこんなときにつくって、こう食べるとおいしい」といったように紹介し、どの料理にもストーリーがあったので興味を持ってもらえたのかもしれません。それは、私が鹿児島のお義母さんの季節や行事とともにある料理に惹かれるのと同じなのでしょうね。

鹿児島のカンパチでつくったカルパッチョ。豊かな彩の夏野菜もたっぷり。

具沢山で素朴なレンズ豆のスープ。子どものころ、祖母が土曜日につくってくれたという思い出の一品。
※料理写真の提供は門倉さん

「たにあ」と名前が書いてある木の箱は「もろふた」で、鹿児島の実家では餅つきの時やそば打ちの時につくったものを並べて使用するそう。「人が大勢来る法事の時などにはお盆代わりにも使います。東京ではキッチンが狭いので、これにケーキクーラーを乗せてケーキをリビングで冷ましたり、お盆にしたりしています」(門倉さん)

家事や整理整頓の技術は、ドイツ人のおじい様、おばあ様から学ばれたとか。

インテリアは白やアースカラー、生成りといった色合いがベース。季節の花を飾り、その彩で空間にアクセントを加えているそう。

2歳、6歳、18歳のときにドイツの祖父母の家で暮らしました。料理は教えてもらったというより、祖母とよく一緒につくったので覚えているんです。学校から帰ると、その日に使う野菜、例えば、インゲンなどがダイニングテーブルの上の大きな桶の中に山盛りになっていて、学校であったことを話しながら、一緒にヘタを取るんです。コミュニケーションと料理づくりが一緒になった楽しい時間でしたね。

整理整頓は祖父から教えられました。祖父はとても片付け上手で、「スリッパを脱いだら揃えるんだよ」「財布はここにしまうんだよ」と、その都度、声をかけてくれたので、一緒に生活しているうちに自然に身に付きました。祖父に限らず、ドイツ人は片付けがよくできます。ドイツ人は子どものころから、整理整頓の方法を教えられ、しつけられているんですよね。ですから、ドイツで片付いていない家はあまりないと思います。例えば、月曜日の朝に突然訪問しても、どの家もきれいですね。

これは、ドイツ人にとって、家を美しく保つことの優先順位が最も高いからできていることなんです。例えば、子どもが勉強道具をダイニングに広げていても、父親が仕事から帰ってくるまでにすべて片付けて、きれいな空間にして食事をする。日本であれば、子どもの宿題が終わってからとか、忙しければ片付けはそこそこにしておきます。日本人には、片付けよりも優先順位が高いもの、例えば、夕食におかずを何品もつくって食べるとか、外出するときにはきちんとした格好をするといったことがあるんですよね。でも、ドイツ人は、「片付いていない部屋でいくらいい料理を食べても、それは体に良いとは言えない。それだったら今日は片付けをして、食事はライ麦パンとチーズとソーセージでいい」と考えるわけです。

知人から譲り受けたという桐箪笥は、引き出しの内部に仕切りを設けて、グラス収納として使用。「和家具の引き出しは奥行きがあるので、食器の収納に向いています。引き出せるので、奥にあるものも取り出しやすいんですよ」(門倉さん)

ご自身は、日々、どのように住まいを設え、整えていますか。

和箪笥や、洋風のカウンター、インテリア小物などが置かれたリビングの一角。テイストは違っていても、どれも門倉さんの好きなものばかり。

ドイツ人の母は、夜に片付けをする時間を設けて、翌朝のテーブルセッティングをしてから就寝していましたが、私は、夜、部屋が片付いていなくても、そのまま寝てしまいます。そして、朝は部屋の端から順に片付いていないものを決められた場所に戻していきます。家は、一度、片付けて整えてしまえば、あとは毎日少しの時間をかけるだけで美しく保つことができるんです。来客があるからと、一気に時間をかけて片付けるより、毎日短時間という方が断然、楽ですよ。

家の中には、好きなものだけを置いています。よく、インテリアで〇〇風とかありますよね。そんな風に統一してしまうと、次に何か家具を買うときも、それにしばられなければいけないのでしません。私がものを選ぶ基準は自分が好きかどうか。だから、このリビングにもまったく趣が異なるもの、ソファやダイニングテーブルと和箪笥が同居していたりします。何かを購入するときには、自分の家に合うのかどうか、そして他のものとのバランスをよく考えますね。本当に気に入ったものに出会うまでは買いません。

それから、ピカピカのもの、あまりにきれいすぎるものは苦手で、ラフなもの、多少汚れても傷が付いてもそれが味になるようなものが好きですね。服も同じで、コットンのシャツとかチノパンとか、気楽に着られるものが好きなんです。

ソファにいつも置いている、インド製の刺し子のひざ掛け。鮮やかな色と素材感がお気に入りだそう。

ドイツ流と日本流、どちらも共感できるところがあるといいます。

書斎に置かれている水屋箪笥。門倉さんの父親の実家にあったものを、母親が譲り受けて使い続けてきたそう。「母は内部にガラスタイルを貼ってホームバーにしたり、配線のために穴を開けてパソコン台として使ったりしていました」(門倉さん)。内部に並んでいるのは、ドイツで100年ほど前に流行したというアンティークのヒヤシンス栽培用の花瓶。

ドイツ人の徹底的に議論するところや、情報を集めて考えて自分で責任を持つというところは正しいと思うのですが、日本人のように流れに任せて、周りと争いごとをしないで和を大切にするのも、私は心地良くて好きなんです。

食器にしても、ドイツでは長年、規格が変わらないものが使い続けられています。もともとブランドも、同じ規格のものを長く使い続けられるようにという目的で確立され、存在していますから。洋食器は形のバリエーションがそれほど多くないですから、収納もしやすいですしね。

日本は食器の形がいろいろとありますし、行事ごと、料理ごと、さらには季節ごとに使う食器が違っていたりします。だから、日本人は持っている食器の数自体が多いですよね。今、私が使っているのは洋食器が中心ですが、いつか、いろんな日本の器を揃えて、料理を楽しみたいと思っているんですよ。それぞれに違う焼きものの器をバランス良く組み合わせて使う、そんな文化のある国は他にはないのではないでしょうか。

ドイツ人の母は、文化も習慣も異なる日本での暮らしが苦しくなったとき、百貨店に行って和食器売り場を眺めたそうです。そしてそのたびに、「こんな美しいものを作っている人たちは、きっと素晴らしいはず」と感じ、リラックスして家に戻っていたといいます。その気持ち、私もわかりますね。

ロンドンの骨董市で見つけたというイギリス製のコーヒーカップ。ひびの入ったところは金継ぎ(陶磁器などの破損部分を漆によって接着し、金で装飾して仕上げる修復方法)をして修復。写真の細い枝葉のような柄が金継ぎしている部分。

門倉多仁亜 Tania Kadokura

日本人の父とドイツ人の母のもと神戸で生まれ、父の転勤に伴い日本、ドイツ、アメリカで育つ。国際基督教大学を卒業後、証券会社に勤務する。結婚後、夫の留学のためにロンドンへ。そのときにコルドンブルーに通いグランディプロムを取得する。

帰国後、東京で料理教室を開始。'09年には夫の実家である鹿児島県(鹿屋市)に家を建て、東京で暮らしながら毎月一度ほどのペースで鹿児島での生活も楽しんでいる。

現在はテレビなど各種媒体での活動を通してドイツの食だけでなく生活文化を発信。著書に「コーヒータイムのお菓子(絶版)」(文化出版)、「タニアのドイツ式部屋づくり」(ソフトバンククリエイティブ)など。

●門倉多仁亜さんウエブサイト http://www.tania.jp/

取材:2017年4月
撮影:平山 順一

ようこそ、マリモリビングオープンキャンパスへ学長メッセージ 開校のごあいさつ