ゼミナール

「用と美」ゼミナール

エコで美しい人⑤

震災後に始めた猫の小物づくり
石巻で細く長く続けていきます

木村眞由美さん

2016年11月1日更新

石巻の女性たちがつくる、
ウエットスーツの端材を使った猫の小物"Puchinya" 。
この事業に取り組むのは、
自身も被災者である木村眞由美さんです。

木村さんのプロフィール

東日本大震災の後、石巻でウエットスーツの端材を使った
猫の小物をつくられています。

震災で石巻は津波の被害に遭いました。直後には、主要産業である水産加工会社のほとんどが営業を続けることができず、そこで働いていた女性たちの仕事がなくなってしまったんです。男性は、がれき処理などの働き口があったんですけどね。

石巻専修大学経営学部 山崎ゼミが仮設住宅に住む被災者に聞き取り調査を行ったところ、こうした問題が明らかになり、女性が働くための復興支援として、この事業が立ち上がりました。小物の材料はウエットスーツをつくる際に出る端材。石巻にはウエットスーツの国内トップシェアの被災企業があり、私は、その会社の人と知り合いで声をかけられました。

私が商品を企画、デザインして、石巻の女性たちが内職で生地の貼り合わせや縫製を担っています。

木村さん自身も被災されて、つらい経験をされたそうですね。

地震があったときは、市内を車で移動中でした。ものすごい揺れでしたから、「これは津波が来る」と直感し、近くにある日和山に避難しました。日和山からは石巻の街や海が一望できるのですが、津波に飲み込まれる様子を目の当たりにし、2日後に街へ下りたときに見た――おそらく、戦争の後はこうじゃないかと思えるようなすさまじい光景は、今でも忘れることができません。

日和山公園から見た石巻湾と市街。再建された建物と更地が混在し、工事の重機も目に入る。復興の途上であることがうかがえる風景。

震災前、私はウェブデザインの仕事をしていました。自分の店を持つことも昔からの夢で、震災の数日前に飲食店をオープンしたのですが、その店も津波にやられてローンだけが残ってしまいました。それでも食べていかなくてはなりませんから、働かなくてはと思っていました。そんなときに始まったのが、ウエットスーツの端材を使った小物づくりなんです。

企画やデザインから、販売、営業までを自分でやっていましたから、無我夢中でした。でも、あのときは本当にいろんなことがあって、忘れたいこともあったので、今、考えると、目の前の仕事に没頭できたことはありがたかったですね。

なぜ、猫をモチーフにしたデザインなのでしょう?

子どものころから、親に内緒で捨て猫を飼うほどの猫好きだったんです。私の家には「ぷちおさん」というオス猫がいるんですが、パンダのようなぶち模様をしていたことから、mixiで「へんなもようねこ」というコミュニティを立ち上げ、ユニークな模様の猫と暮らす飼い主や猫好きの人と交流していました。震災後、その人たちが、私とぷちおさんのことを心配してくれて、支援物資を送ってくれたんです。それらの大部分は猫がデザインされたもので、すごくかわいくて癒されました。それまで私は猫のグッズを集めたり、使ったりしていなかったのですが、あらためてその魅力に気づかされたんです。だから、猫の小物をつくれば、支援してくれた猫好きの人たちも喜んでくれるかなと考えました。ブランド名の「Puchinya(ぷちにゃ)」は、ぷちおさんにちなんだものです。

木村さんの愛猫「ぷちおさん」。11年前に日和山公園に捨てられていたところを保護し、以来、ともに暮らしている。写真提供:木村さん

Puchinyaのコインケース。迷彩柄の生地に何匹もの猫が走る姿がプリントされ、裏側には大きな肉球、ファスナーを開けると内側から猫が顔を覗かせているという凝ったデザイン。内側のブチ模様の猫は、ぷちおさん!?

つくるものには、自分の中で強いこだわりがあるそうですね。

自分が欲しいと思えるもの、長く使えるものだけをつくろうと考えました。もともと、ものづくりもやりたいと思っていたことなので、こうした考えにこだわり続けることができているのかもしれません。例えば、コインケースであれば、イラストも外側だけではなく、内部にも入れて、ファスナーを開けると猫が顔を覗かせるようにしたり、私が大好きな歌川国芳(江戸時代の浮世絵師)の猫の絵をバッグやポーチにプリントしたり。

材料はウエットスーツの生地なのでソフトで肌触りがいい上に、丈夫で水に強く、実用品に向いているんです。生地は型で切り抜いた後、接着剤で貼り合わせ、ミシンでジグザグ縫いをします。これは、普通の布のように重ねて縫うと厚みが出てしまうからです。ミシン糸も、レインボーカラーにするなど、こだわっています。

型枠でカットした生地に、どんなデザインを施すか考える。猫のイラストはシルクスクリーンで生地にプリント。「イラスト版をいろんな製品に使い回すなど、工夫しています」と木村さん。

製品化には端材ならではの難しさ、おもしろさがあるようです。

猫顔や猫模様がプリントされたPuchinyaの製品。大きなバッグは「でか猫DX(でにゃっくす)」、小ぶりなものは「でか猫ポーチ」、手前は「キャットパフューム ポーチ」と商品名もユニーク。「バッグやポーチには、猫に名付けするように、それぞれひとつずつ名前を付けているんですよ」(木村さん)

右上から時計回りにペットボトルホルダー、「ぷちけーす」、コインケース、「ながいぽーち」。オレンジのペットホルダーの柄は宮城県の名産であるこけしをモチーフにした猫。ピンクの「ながいぽーち」には歌川国芳の浮世絵の猫がプリントされている。

出てきた端材からどんな形のものをつくるかを考えるのですが、「端材ありき」ですから、大きいものだったら大きいものをつくり、そのときに使えないサイズなら次の機会に再考するといった具合にやっています。端材なので同じ生地は少量ずつしか出ません。ですから、人気のあるカラーや柄でも、大量につくることができないんですよね。お客様からも問い合わせをいただくのですが、1点のみということもあります。だからこそ、おもしろいデザインや、ほかでは見られないような美しさのある製品が生まれるのではないかと思います。

当初は「本当に売れるのかな」と不安でしたが、最初に売り出した37個のコインケースはあっという間に完売でした。復興支援ということはもちろんあるのでしょうが、Puchinyaの猫たちのことが本当に好きで、何度も製品を購入してくださるファンの方も多くいらっしゃるんですよ。

なかなか欲しいものが手に入らない不自由さとか、手づくりだから少量しかできないという過剰ではないところが良かったのかな。自分ではまったく計算していないことなんですけどね。

Made in Ishinomaki だからこそつくる意味があるとお考えです。

Puchinyaのバッグを肩に、津波が上っていった旧北上川の中瀬を指差す木村さん。「中瀬にある石ノ森漫画館(宮城県出身の漫画家・石ノ森章太郎の記念館)も被害を受けましたが、立派に修復されました。石巻では復興できている地域もあれば、そうでない場所もあり、生活を立て直せていない人たちもいます」

よく、「外国で生産したら、もっと安く大量につくれますよ」というお声掛けをいただきます。確かにそうなのでしょうが、もともと大きな商売をめざしているわけでありませんし、Puchinyaは石巻でつくるべきものだと考えています。「石巻の女性たちの手による製品だから」と買い求め、こうしたものづくりを支えることが復興につながる社会貢献だと考えていらっしゃる方は少なくありません。震災直後から商品を購入して励ましのお手紙をくださった方、「何か力になりたい」と、Puchinyaのペンケースを東北の子どもたちにプレゼントしてくれた起業家のみなさん、東京での販売協力を申し出てくださった学生さんたちなど、本当にいろんな人たちに支えられているんです。

石巻でPuchinyaに関わってきた女性たちは、引き続きつくり手として頑張っている人も、生活再建の目処がたって仕事を辞め、新しい暮らしをスタートさせている人もいます。今、石巻では生活も落ち着いてきて、復興の第二段階に入っているという感がありますね。

あの震災がなければ、私もこうしたことはしていないわけですから不思議です。この仕事や製品を通じて関わり合い、支えてくださった方たちとのご縁を大切にしながら、石巻で細く長くPuchinyaを続けていきたいと思っています。

木村眞由美 Mayumi Kimura

宮城県石巻市生まれ。2011年の東日本大震災前は、石巻を拠点にウエブデザイナーとして宮城県内の企業のウエブサイトを制作。飲食店経営も行っていた。自身も東日本大震災を経験し、避難生活を送る。震災直後に一時、地元の企業がほとんど機能しなくなったことから、2011年12月、仮設住宅などに住む女性の仕事をつくることを目的としたウエットスーツの生地の小物づくり事業 Puchinya を立ち上げ、企画からデザイン、営業、販売までに一貫して携わる。

2015年4月 地域デザイン学会誌に事例掲載。被災犬・猫たちを保護する「福島動物レスキューSORA」とのコラボレーション、子どもたちを食の面から支える大学生の活動「はちおうじこども食堂」との連携も行っている。

2016年9月28日~11月6日、愛媛美術館『 いつだって猫展』にPuchinyaが出店。

●Puchinyaウエブサイト http://puchinya.com/

取材:2016年10月
撮影:平山 順一

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