ゼミナール

「用と美」ゼミナール

エコで美しい人③

ミツバチが街の環境を変え
人や地域をつなげてくれました

銀座ミツバチプロジェクト代表世話人 田中淳夫さん

2016年3月18日更新

銀座のビルの屋上で、
年間1トンのハチミツが収穫されています。
極上のハチミツは、
銀座の一流の職人の手でさまざまな商品になり、
ミツバチが住むようになった街には変化—————

林さんのプロフィール

銀座のビルの上でミツバチを飼うことになったきっかけを教えてください。

私が入社した会社はビルのテナント業をしていまして、場を提供することが仕事です。このビル(紙パルプ会館)の貸会議室でも、銀座や食に関する勉強会を開いていました。そこで多くの方々と関わるようになり、あるとき、養蜂家が蜂を飼育できるビルの屋上を探していると聞いたのです。「この屋上を使ってもらえば、とれたハチミツをもらえるかな」と思い、提供を申し出ました。

銀座3丁目の紙パルプ会館の屋上、地上45mで養蜂が行われている。

でも、その養蜂家(藤原誠太さん)から、「商業用としてはスペースが足りないので、自分たちでやってみては」と薦められ、いつの間にか私がやることに…。2006年に友人2人とお金を出し合って、銀座ミツバチプロジェクト(通称「銀ぱち」)を始めました。

都会の多くの人が集まる場所で養蜂。反対されませんでしたか?

もちろん、社員には猛反対されましたよ。テナントのお客さんに何かあったらどうするのか、と。事故があったらすぐにやめるつもりでした。でも、ミツバチは巣箱から直接花まで飛んで行くので心配いらないですし、藤原さんからも、「ミツバチが飛ぶ高さと人が歩く場所は違うから、たくさんの人が訪れる銀座でも大丈夫」と教えていただいたんです。

ミツバチは、めったなことでは人を刺しません。優しく接すれば、穏やかでいてくれる。私は巣箱を扱うときに顔は防護しますが、素手でゆっくりと作業をします。手袋をしない方が丁寧に扱えますから。1か月足らずのミツバチの一生で、1匹からとれるハチミツは小さじ1杯分ほど。それを「いただく」という気持ちで常に彼らと向き合っています。花の匂いや場所を覚え、〝記憶する生き物″と言われているミツバチですから、ここで作業をする人間が「自分たちをプロテクトしてくれている」ことも覚えているのではないでしょうか。海外から見学に来られた養蜂関係の方からは、「銀座のミツバチはとてもジェントルだ」と言われます。

ミツバチの様子は定期的に見る。巣箱から巣枠を取り出す前に、燻煙器で煙を吹きかける。ミツバチは煙を吹きかけられるとおとなしくなる性質がある。

巣枠をゆっくりと取り出す。
作業はいつも素手で。

銀座の〝ジェントル″なミツバチたち。

紙パルプ会館屋上の養蜂場。

意外なことに、銀座はミツバチにとって理想的な環境だそうですね。

東京は意外に緑が多いんですよ。ミツバチが飛ぶ範囲は、およそ3km四方。ここから1.2kmのところにある浜離宮恩賜庭園には30万本の菜の花が咲きます。霞が関には数百本のトチノキ、日比谷公園から英国大使館にかけてはユリノキが。皇居の緑地帯にはいろんなものがあって柑橘系のミツもとれます。銀座界隈でもマロニエ通りのマロニエ、並木通りのリンデン、電通ビル近くの桜など、蜜源植物に恵まれているんです。

ミツバチには、〝営業企画″みたいな役割を担うものがいて、毎朝、触角に感じる花の香りをたよりにリサーチに出かけます。戻ってくると、「8の字ダンス(※)」で花のある場所と方向を仲間たちに教え、一斉に飛んで行くのです。

紙パルプ会館10階につくられた「銀座ビーガーデン」。 花畑や野菜畑が広がり、屋上のミツバチが遊びにやってくる。

※ドイツのカール・フォン・フリッシュ博士が発見。ダンスで太陽に対しての角度を示すことで進行方向を、回って描く8の字によって移動距離を示す。博士は、この功績で1973年にノーベル賞受賞。

銀座のハチミツを使った商品も生まれています。

プロジェクトの目的の1つが、銀座でとれたハチミツで銀座の街を活性化することでした。もともと銀座は職人の街ですし、新しいものを受け入れて自分たちのものにしてきた気風があります。銀座で働く一流のシェフやパティシエ、バーテンダーの方たちに銀ぱちのハチミツの味を確かめていただいて「非常に質が高い」と認めていただき、カクテルやスイーツなどの商品が生まれました。

プロジェクトの初年度に150kgだったハチミツの収穫量が、今では1トンになり、そのほとんどが、こうした銀ぱちとのコラボレーション商品に使われています。銀ぱちのハチミツを使う商品は、「銀座に来なければ買えない」ことが条件。ハチミツで〝地産地消″を実現したいと考えているからです。

銀座ミツバチプロジェクトのハチミツを配合したボディソープとボディクリーム(イグニス)

ミツバチ酵母で醸造されたビール、「銀座ブラウンRICH SWEET」「銀座ブラウン」(サッポロビール)

右上から時計回りに、銀座のはちみつ 36g1728円、180g7560円(ラベイユ銀座)/銀座はちみつシュー 378円(シェ・シーマ)/銀座の蜂蜜カステラ 1A号2916円、銀座の蜂蜜カステラ・銀座の蜂蜜プリン詰め合わせ 2808円(銀座文明堂)/銀座はちみつ梅 1粒 378円、銀座はちみつ入り季節のピクルス 80g432円(喜多福)/銀座はちみつバトン 1296円(パティスリー ドゥ・ボン・クーフゥ)/銀座はちみつガレット 7枚入り540円(タント・マリー)
※上記6商品は松屋銀座(東京都中央区銀座3-6-1)で販売中。

ミツバチが住むことで、街に変化がありました。

ミツバチは蜜を集めるときに受粉を助けるので、桜にはさくらんぼが実りました。銀座は自然の環境と離れたところにあると思っていたのですが、ミツバチを通してその環境が見えてきたのです。こうした変化を感じるにつれて、「ミツバチが住める街に」と考え、賛同してくださる人たちも増えてきました。現在、銀座のデパートや商業ビルの屋上には、花を植えた「銀座ビーガーデン」が13か所、1000㎡あります。ミツバチのために「花を植えよう」「食べられる植物を植えよう」という屋上農園なのですが、これが新潟の茶豆や越後姫(いちご)、福島の菜の花など全国各地の作物を育てるプロジェクトにもつながっています。

銀座ビーガーデンのハーブ畑で。

紙パルプ会館10階の銀座ビーガーデンへのアプローチには、銀座ミツバチプロジェクトの情報コーナーが設けられている。

紙パルプ会館の酒米「はさ掛け」は毎秋の恒例。新潟・村上の食を楽しむイベントの一環として、参加者が自分たちの手で掛ける。銀座に秋を告げる風景として親しまれている。

銀ぱちの活動が銀座という街を盛り上げて、人と人をつなぎ、さらに地方と銀座をつなげる活動にも広がりました。「都市養蜂をしたい」という相談があれば、私たちはすべての情報を公開して立ち上がりのアドバイスを行います。今では、ミツバチプロジェクトは札幌やさいたま、東京の自由が丘や多摩、名古屋、大阪の梅田、小倉、大分、那覇など各地に広がっています。

銀ぱちから広がったいろんな活動を、私は「大人の遊び」と言っているんですよ(笑)。遊びだけど、社会の目指す方向にリンクしているから発展しますし、可能性も秘めているんです。

田中淳夫 Atsuo Tanaka

特定非営利活動法人 銀座ミツバチプロジェクト 副理事長及び代表世話人、農業生産法人 株式会社銀座ミツバチ 代表取締役、株式会社紙パルプ会館 専務取締役。

1957年東京生まれ。1979年株式会社紙パルプ会館に入社。1993年関係会社である株式会社フェニックスプラザ取締役となり、経営全般を管掌。2006年同社代表取締役、2011年株式会社紙パルプ会館 専務取締役に就任。

2006年3月「銀座ミツバチプロジェクト」を高安和夫氏と共同で立ち上げる。2007年に特定非営利活動法人の認証を受け、NPO法人銀座ミツバチプロジェクト副理事長に就任。2008年からは、地域の生産者を応援するイベント「ファーム・エイド銀座」を毎年4回開催し、実行副委員長を務めている。2010年農業生産法人 株式会社銀座ミツバチを設立し、代表取締役社長に就任。

著書に『銀座ミツバチ物語』『銀座ミツバチ物語part2』(時事通信社)など。

●銀座ミツバチプロジェクト http://www.gin-pachi.jp/

取材:2016年3月
撮影:平山 順一

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