ゼミナール

「用と美」ゼミナール

エコで美しい人①

どの活動も、
今の自分が自然にやっていることです

「海月」女将、エコツアーガイド 江﨑貴久さん

2015年9月30日更新

三重県鳥羽の旅館の女将であり、
エコツアーガイドでもある江﨑貴久さん。
異なるフィールドで活動を続ける
江﨑さんに会いに行ってきました。

江﨑さんのプロフィール

旅館の女将とエコツアーガイド、どんなきっかけで始めたのですか?

経営不振になった実家の旅館の整理を手伝うために、1997年に東京から鳥羽に戻りました。当初は女将になるつもりはなかったのですが、「続ける方法もあるよ」と言ってくれる方もいて、「私でなければできない仕事があるなら、女将もおもしろいかな」と思い、やることにしました。

周囲の旅館も倒産していきました。観光に携わる人たちが、本当に大事なものは何なのかを思い違いしていたと思います。お客様は何を魅力にここに来ているのか―そんな根本的なことを見つめ直し、エコツアーガイドとしての活動も始めました。

江﨑さんが女将を務める旅館「海月」のエントランスで、お母様で大女将のはる子さんと。

「どうすれば、お客様にいい時間を過ごしていただけるか、設えひとつにしても考えます」。自他ともに認める「おしゃべり」の江﨑さんは、女将として、客にもどんどん話しかけ、会話を楽しんでいるという。
仕事を離れた最近のお気に入りの時間は、ネイリストのお姉さんと話をしながら爪の手入れをする、ゆったりとしたひととき。

地域の自然や文化を観光客に伝えることで、その価値や大切さが理解され、
保全につながっていくことがエコツーリズム。そして、それを伝えていくのが、
江﨑さんが取り組んでいるエコツアーガイドの活動です。
エコツアーガイドとして、どんなことをされているのですか?

エコツーリズムでは、自然資源や文化的資源を使うことが経営資源になります。他の産業と違って自然にあるものですが、将来にわたって確保していく方法を考えると、守って使いすぎないようにする必要があるんです。

例えば、無人島の磯観察ツアーでは、漁師さんが獲らない生き物であっても、同じフィールドを使い、生態系のこともあるので、明確なルールを作って漁協に提出し、使わせていただいています。

無人島ツアーでは、「磯場に1日30人まで、同じ磯場に3日以上続けて入らない」と決めていましたが、自然環境によって変わってくることがあるんですよね。磯観察は潮が引いた日にしていましたが、炎天下で次の潮を待って生き延びている生き物を楽しそうに観察するのはどうなのか、弱っている生き物に、さらに負荷をかけるのはまずいのではないかと思い、今は潮が満ちているときにシュノーケルをする方法に変え、人数も10人までに制限しています。

美しい鳥羽の海。その景観や豊かな自然を求めて、多くの観光客が訪れる。

江﨑さんが主宰するエコツアーの拠点、「海島遊民くらぶ」。無人島ツアーや、地元の人とふれ合い、食材を楽しめるツアーなど、多彩なアクティビティを企画。

女将とエコツアーガイド、一見、正反対にある活動のようにも思えます。

どちらも、今の自分が自然にやっていることです。エコツアーはフィールドに制限がなく、女将は旅館という限られた世界の中、という意味では違っていますね。でも、お客様にしていただきたいことは、「地域の資源や魅力を発見してもらう」「いい自分と出会ってもらう」ということで一緒なんです。

もちろん、女将とガイドでは所作が違うと思います。意識はしていますが、その空気の中に入ってしまえば、その所作になるんですよね。どういう所作でどんな話し方だったら、お客さんの心が開くか考えています。違和感があると気になるでしょう? 女将としても、美しく見せるんじゃなくて、相手に気にさせないようにするということですね。汚い所作は人の邪魔をしますから。逆に、キレイすぎて気になるのもおもてなしとしてはよくないと思います。

カキ養殖が盛んな浦村地区で、江﨑さんの活動を応援している漁師の〝大ちゃん〟こと浅尾大輔さんと。

浅尾さんは、「浦村アサリ研究会」の代表。海の酸性化で減少傾向にあるアサリを増やそうと、研究に取り組んでいる。

「鳥羽の海ではいろんなものが獲れるから、1種類だけを追い詰めるようなことはしません。それが、ずっと自然資源を使い続けられることにつながるんです」

江﨑さんが美しさを感じるのはどんなときですか?

強さの中に美しさを感じます。圧倒的な強さではなく、はかないことや自然の摂理の中で絶えるかもしれないような中にある強さです。

例えば、本当に海女さんは美しいと思います。海に入るとよけいなこと考えないじゃないですか。瞬間に判断して行動する。迷っていたら死んじゃいますからね。

私、海女になりたいんです。自分の食べるものを自分で獲れるようになりたいと考えるのは、強くなりたいからでしょうか。今の自分の強さは、はったりみたいなもの。生き物として生まれてきた以上は、食べるものを自分で得ることができるようになりたい。

50歳までにはなりたいですね。今やっているすべてのことは、海女をやりたいことにつながっているんですよ。だって、若いころからやっていないから、そんなに深くもぐれない。豊かな資源がある海でないと私の夢は叶わないんです。

江崎貴久 Kiku Ezaki

有限会社 菊乃 代表取締役(旅館海月 女将)、有限会社 オズ 代表取締役(海島遊民くらぶ)、三重大学 大学院生物資源学研究科博士前期課程在学中。

京都外国語大学英米語学科卒業後、1996年エトワール海渡東京本社就職。1年後、有限会社 菊乃設立、代表取締役就任。観光業の本来あるべき姿を見直し、地産地消を基本に、海月の経営を開始。

2000年には、有志とともに(有)オズとして「海島遊民くらぶ」を立ち上げ、鳥羽らしさの最も残った地域である離島をフィールドに自然や生活文化を通して環境と観光、教育と環境を一体化させたエコツアーを展開。

現在、観光や環境に関わる行政委員や、地元の鳥羽市エコツーリズム推進協議会会長を務め、鳥羽市や観光協会の新たな指針の下、地域の漁観連携を進めている。また次世代のリーダー・人材育成・地域全体での資源活用のあり方を研究しながら実践するとともに、各地の地域の活性化に取り組んでいる。

三重県のイベントや国定公園のプロジェクトなどにも関わり多忙な江﨑さん。海女さんになるのは、少し先になりそうだとか。「海の資源を豊かにするには、そこにつながる川や山、森のことも考えなければいけませんね」

●海月 三重県鳥羽市鳥羽1丁目10-52 http://www.kaigetsu.co.jp/

●海島遊民くらぶ 三重県鳥羽市鳥羽1丁目4-53 http://oz-group.jp/

取材:2015年8月
撮影:平山 順一

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