特別講座

特別講座

住むことは、生きること。
〜この星に生き続けるために〜

2017年6月1日更新

探検家 関野 吉晴氏

キャンパスの芝生テントで
年に4回開講されたmarimo livingの「特別講座」。
1年間にわたり講義をしてくださったのは
グレートジャーニーで知られる探検家
対談相手としても多方面からラブコールを送られるこの方です。
最終回もお見逃しなく!

豚の丸焼き会で試食を前に乾杯の音頭をとる関野さん。2016年12月

関野吉晴 SEKINO Yoshiharu

1949年東京都墨田区生まれ。
探検家、医師、武蔵野美術大学教授(文化人類学)

一橋大学在学中に同大探検部を創設。
1971年アマゾン全域踏査隊長としてアマゾン川全域を下る。
その後25年間に32回、通算10年間以上にわたって、アマゾン川源流や中央アンデス、
パタゴニア、アタカマ高地、ギアナ高地など、南米への旅を重ねる。
その間、現地での医療の必要性を感じて、横浜市大医学部に入学。医師(外科)となって、
武蔵野赤十字病院、多摩川総合病院などに勤務。その間も南米通いを続けた。

1993年からは、アフリカに誕生した人類がユーラシア大陸を通ってアメリカ大陸にまで
拡散していった約5万3千キロの行程を、
自らの脚力と腕力だけをたよりに遡行する旅「グレートジャーニー」を始める。
南米最南端ナバリーノ島をカヤックで出発して以来、足かけ10年の歳月をかけて、
2002年2月10日タンザニア・ラエトリにゴールした。

2004年7月からは「新グレートジャーニー 日本列島にやって来た人々」をスタート。
シベリアを経由して稚内までの「北方ルート」、
ヒマラヤからインドシナを経由して朝鮮半島から対馬までの「南方ルート」を終え、
インドネシア・スラウェシ島から石垣島まで手作りの丸木舟による4700キロの航海「海のルート」
は2011年6月13日にゴールした。

1999年 植村直己冒険賞(兵庫県日高町主催)受賞
2000年 旅の文化賞(旅の文化研究所)受賞
2013年3月16日〜6月9日 国立科学博物館(特別展)「グレートジャーニー・人類の旅
〜この星に、生き残るための物語。〜」

●関野吉晴公式サイト http://www.sekino.info

第4回 すべての命が「生き延びていく物語」を紡ぎたい

みんなが食べているものは生き物なんだよ、と。

最後の講座は、豚の丸焼き会場で行いましょう。青梅のこの会場は、映画にもなった武蔵野美術大の課外ゼミ「カレーライスを一から作る」で、無農薬の野菜づくりを教えてもらった野口敏宏さんの自宅兼工房です。もう10年以上続けている会で、現役のゼミ生をはじめ卒業生が友人を連れてきたり、野口さんの木工教室の生徒さんが家族連れで参加したり。学生と市民とが一緒になって豚の丸焼きを囲む、和やかな会です。

実はこの会でドラム缶を使って焼くのは今年が初めてで、去年までは木で櫓(やぐら)を組んで、その上に豚をのせて20時間いぶしていました。アマゾン風の燻製ですね。自然界から素材を取ってくるというアマゾンの人たちに倣い、ゼミ生たちは前夜から泊まり込んで櫓を組み、仕込みをしていたのですが、僕のゼミの卒業生が、結婚式の披露宴でこのドラム缶式の豚の丸焼きに、新郎新婦がケーキカットみたいに入刀するというのをやった。ドラム缶なら4時間くらいで焼けるので、なかなかいいなと思い一度やってみようと。

ちなみに櫓を組むのがアマゾン風で、レンガを積み重ねた窯で焼くのがアンデス風です。大学では原則として火を使えないのですが、幸いにも美大には陶芸研究室があるんですね(笑)。そこで消防署の許可を得てアンデス風の、その時は羊でしたが、丸焼きをやったこともあります。

野口さんの自宅兼工房の前庭が会場。立ち上る煙と匂いに、雑談しながら待ちわびる参加者たち。

この日は豚の半身にたっぷりのにんにくと香草をまぶしてドラム缶で蒸し焼きに。

待つこと約4時間。いよいよドラム缶から豚を取り出すときがきた。
こわごわ近づく‥‥

みんなを代表して最初にドラム缶の中を覗き込むのは関野さん。

こんがりとした上々の焼き映えにようやく安堵の笑顔がこぼれるゼミ生(手前)。彼は前夜から泊まり込んで仕込みをした。

入刀の役目は野口さん。一斉にシャッター(ほとんどはスマホだが)の嵐。

なぜ僕がこういうことをやるか。

南米へ通っていた頃にアンデスで丸焼きにして食べていた羊がほんとうに美味しくて、彼らにもそれを味わって欲しいなというのがひとつ。もうひとつは、みんなが食べているのは生き物なんだよ、命を食べているんだよ、ということを分かって欲しいということです。

最初に大学で焼いた羊の話をしましょう。埼玉県の小川町といって、早くから循環型の有機農業に取り組んでいる有名な町があるのですが、ここの農場の人が羊を分けてくれるということになった。何歳かと聞くと9歳だって言う。9歳というとだいぶおばあちゃん羊だな、初めて学生に食べてもらって、羊ってこんなに硬いのか、と思われるのは残念だな‥‥と内心思っていたら察してくれたのか、6か月の子羊を回してくれることになって。ところが、前回カレーのときにも話したように、四つ足の動物は自分たちで屠れません。かといって、東京都の芝浦と場では受け付けてもらえない。そうですよね、1日千頭単位の牛や豚を屠っているところに、一頭の羊をお願いするというわけにはいかない。

 

困ったなというときに、当時東京都八王子にあった小さな食肉処理場で引き受けてくれて、埼玉から農場のお母さんが軽トラックで羊を運んできてくれました。そのときに、その羊の写真を持ってこられて、「ひとつお願いがあります。学生さんたちに、生きているときの写真を、食べる前にちゃんと見せてください」と。学生たちはその羊が生きているときの姿を見ていないので、見せてから食べさせてくださいねとおっしゃったことは、強く印象に残っています。

そして窯で焼き上げて、食べる前に写真を見せ、命をいただくということについて話をしました。当時の学生はさすがだなと思ったのは、その話のあと全部食べ尽くしました。脳みそから目玉から全部。彼らとは山形県天童市へ日本で唯一、イヌワシとかクマタカとかの猛禽類を使った狩りをする鷹匠の松原さんのところへ見学に行ったことがあります。生きた鶏やウサギを放つと鷹が低空で飛んできて捕らえる。そのときにけたたましい鳴き声が響き羽と血が飛び散るわけですが、学生たちは「誰ひとりきゃーっと言わなかった」。35人中31人が女子学生でした。これは同行していた直木賞作家の熊谷達也さんがそのときのルポをのちに出版社の小冊子に書いた表現ですが、確かに彼らは芝浦のと場を見学したり、と場で働く人の授業を受けたりして、命をいただくことについて彼らなりに理解を深めていたのだと思います。

10年たって学生がガラリと変わりましたね。「カレーライスを一から作る」ゼミも、いまや血を見ないですむシーフードカレー班が一番人気ですから(笑)。

地球の問題を解決する処方箋は見つからないが、診察を続けたい。

最後に「地球永住計画」の話に戻ります。

火星永住計画よりも地球永住計画。つまり、この奇跡の星を私たちが生き続けていくためにはどうしたらいいのかを、市民と芸術家(芸術家の卵である学生)と科学者が互いの視点を交換しあって、身近な環境の中で再確認することから始めよう、というのが「地球永住計画」です。玉川上水流域で糞虫やタヌキを調べたりするフィールドワークもそのひとつ。最先端の科学者を招いての「公開連続講座」は30回に達しました。

地球永住計画のサブタイトルは"この星で生き続けるための物語"となっていますが、あれには主語がないんです。"私"でもなければ"私たち"でもない。"人間"でもありません。"すべての命"なんです。命のつながりをみていこうとしているのです。

いま私たちの前には、環境汚染、人口爆発、エネルギー資源・地下資源の問題、富の偏在、貧困、格差の問題、東京一極集中と、さまざまな問題が立ちはだかっていますね。僕自身のなかでは、「均一性よりも多様性、排除の論理より包摂の論理、独占よりも分かち合い(シェア)‥‥」と進むべき方向性は見えているけれど、そのための処方箋はまだ見つからない。糞虫を調べたりタヌキを調べたりというのは診察なんです。公開連続講座はこれまで自然科学者ばかりを講師に迎えていたけれど、人文科学系の人たち、哲学者や倫理学者、社会学者、経済学者、そして文学者までも含めていかなければならないと思っているところです。

皆さんも、それぞれの立場で、「この星を生き延びていく物語」を紡いでいってほしいと思います。

意気投合して共に企て、共に学び、共に遊ぶ野口さんと「芸術と循環の森」構想を語る。

「芸術と循環の森」の構想は、できるだけお金に頼らず、じっくりじっくりと進められている。

地球永住計画の連続公開講座より

2017年2月11日 「ビッグヒストリー 〜138億年の人間史〜」 長沼 毅(生物学者)
2017年3月11日 「変形菌 ふしぎな生きもの」増井真那(中学3年にして粘菌研究のスペシャリスト)×高野 丈(編集者・写真家)

●地球永住計画の公式ウェブサイト https://sites.google.com/site/chikyueiju/

取材:2016年12月~2017年4月
撮影:平山 順一

Column

探検家の関野吉晴さんのお話しを聞く、というのでいつになく気合いを入れて(?)武蔵野美術大学の研究室を訪れたのが一年前。物静かだけれど豊かな手振りで語られるのがとても印象的でした。命を点で見るのではなく、つながりで見なくてはならない。1年間を通して学んだことは、シンプルなその1点。
いただいた色紙には「優しく、慎ましく、ゆったりと」と丁寧な筆跡で書かれています。
(担当:ゼミ主幹)

ようこそ、マリモリビングオープンキャンパスへ学長メッセージ 開校のごあいさつ