ゼミナール

「住めば都」ゼミナール

元気なまち物語 ④ 茨城県・結城市

若い力でまちと人をつなぎ、
「まちの後継者」をつくる。

2016年4月28日更新

歴史と伝統はあるけれど、最近少し寂しい」。
こんなまちの元気づくりが、若者たちの手で始まっています。

6年前に若者たちが始めたイベントからスタートした結城のまち起こしの最終目標は、イベントで繋がった人に移住してもらい、「まちの後継者」をつくること。音楽イベントの会場のひとつ「御料理屋Kokyu」(上の写真)はその理想的なケース。イベント参加をきっかけに結城にUターンした夫婦が3年前に開き、地元産の新鮮素材でつくる料理が評判。

「歴史と伝統はあるけれど、最近少し寂しい」。こんなまちの元気づくりが、若者たちの手で始まっています。その舞台となっているのは茨城県結城市。鎌倉時代から18代続いた結城家の地領であり、結城紬の産地としても知られる人口5万人の地方都市です。彼らが目指しているのは、「まちの後継者」をつくること。今回のまち物語は、その起爆剤となっている2つのイベントのお話から始めましょう。

まちが舞台のイベント。

2016年3月20日。結城駅の北東のエリアはいつもとちょっと違った熱気に包まれていました。

熱気の素は「結いのおと」という音楽イベント。12組のミュージシャンが、まちなかの3つの名所をステージにして一日中ライブを繰り広げるというユニークな音楽祭です。

ちなみに、3つの名所とは、結城紬の問屋「奥順」(「つむぎの館」と「新座敷」)、昭和の民家を使った料理店「御料理屋kokyu」、そして広い庭のあるカフェ「Café La Famille」。結城のまちなみや迷路のような裏道を楽しみながらこれらの会場を訪ねると、お目当てのライブが楽しめるという設定です。

招へいされるミュージシャンの中には、日頃大きな会場やフェスで歌っていたり、結城紬の産地であることを考慮してきもの姿で歌う人も。そんな熱意が伝わるのか、入場チケットは全てが前売りで完売したそうです。

「結いのおと」の参加者には、3箇所の会場とそれを繋ぎながらまちを味わうためのルートマップが配られる。

熱烈ファンもたまたま入場した人も一緒に盛り上がれるのがまちライブの魅力。

紬問屋「奥順」のお座敷(新座敷)をステージにしたグループはまちへのリスペクトの気持ちも込めてきもので演奏。

「奥順」が運営する結城紬の博物館「つむぎの館」にも屋外ステージが設けられた。

「Café La Famille」のガーデンステージは、フード&ドリンクも楽しめるリラックスした心地よい会場。

当日はまちの至るところできもの姿が見られる。きもの好きにとっても「結いのおと」は絶好のイベント。

この日のためのスペシャルメニュー。好きなオードブルを焼きたてパンといただく。

このまちでは秋にももうひとつ大きなイベントが開かれます。その名は「結い市」。「見世蔵(みせぐら)」という結城ならではの個性的な店舗建築を借りて、作家が自分の作品を販売するイベントです。

こちらはすでに7年目を迎えて、100組の作家が参加し、来街者も2日間で2万人を超えるという大規模なものに成長しています。「物品だけでなく食べ物も作品」という考えに基づいて自慢の食べ物をする店も出て、まち歩きと食べ歩きと買い物が同時に楽しめるイベントとして、回を追うごとに人気が高まっているのです。

今や結城を語るキーワードにもなりつつある「結い市」と「結いのおと」ですが、実はこの2つのイベントは、両方とも、結城が大好きな2人の若者の思いから生まれました。

まちは歩行者天国となり、来街者は一日中飲食や買い物を楽しむ。

手ぬぐいにスタンプを押してマップを完成させるスタンプラリー。

「食べ物も作品」とみなし、共感のある作り手や店に出展依頼する。

元旅館はきものショップに変身。他にも様々な店が登場する。

元米穀店の広い見世蔵では、どら焼き屋など4つの店が店開きした。

神社の社殿で行われたのは音楽と書のコラボパフォーマンス。

画像提供:結いプロジェクト

それは2人の出会いから始まった。

2つのイベントは、野口さん(左)と飯野さん(右)の出会いから始まった。

建築家の飯野勝智さん(37歳)と、結城商工会議所職員の野口純一さん(37歳)がその2人です。

飯野さんは結城に7代続く左官屋さんの息子さん。左官屋の跡継ぎは弟さんに任せて、自身は建築家の道を進んでいます。

一方の野口さんは、アパレル会社から結城商工会議所に転職して、まちづくりを担当しています。

6年前、それぞれに「結城で何か新しいことができないか?」と模索していた2人は、共通の知人の紹介で出会い、すぐに意気投合。早速、知人友人に声を掛けて同志を募り、まち起こしのための任意団体「結いプロジェクト」を結成しました。

その「結いプロジェクト」の最初の取り組みが2010年に開いた第1回の「結い市」です。ところが神社の境内で行った初回は、悪天候もあり何とも不完全燃焼な結果に。その反省とリベンジ心から、翌年はまちなかに会場を広げることにしました。

「『結い市』は、結城のまちと外の人をつなげるために開くイベントだから、まちなかに店を点在させて、まちを歩いてもらうようにするほうがいいと思ったんです」と野口さん。飯野さんも「外から来る作家さんが地元の人が大事にしている『見世蔵』を借りて出展するという方法にすれば、地元の人と外の人をつなぐこともできると考えました」と言います。

こうして「まち全体を会場にして、見世蔵を借りて作家が店を出し、まち歩きと買い物を同時に楽しむ」という、今に続く「結い市」のスタイルが生まれたのです。

プロジェクトのメンバーは現在約20人。最初は友人知人を集めたが、その後はイベントなどを通して自然に増えていった。

お祭り騒ぎだけに終わらない工夫と丁寧な運営が功を奏して、イベントは年長者たちからも応援されている。

画像提供:結いプロジェクト

見世蔵とは・・・江戸時代以降に発展した商家建築の一種で、土蔵技術を応用した店舗兼住宅。古い宿場町や商都などに今も残されている場合があり、趣のあるまちなみをつくり出す。

ステージは、「ハレ」から「ケ」へ。

回を重ねるに連れて次第に大きくなり名前も知られるようになった「結い市」と「結いのおと」。参加希望の店や作家からのオファーも多数来るようになりました。しかし、今のところ、「こちらで選んだ人や店にお願いして出展・出演してもらう」というスタンスを崩さないようにしているのだとか。

このスタンスについて、飯野さんと野口さんは次のように語ります。

「このまちにとって大事なのは、量より質だと思っているんです。だから、露店がズラリと並んで他の祭りと変わらない風景になるよりは、当日までに何度も結城に足を運んで見世蔵の貸主と打合せすることを厭わない作家さんに出展してもらって、『結い市』でしか見られない温かな空気が醸し出されるほうが大事だし、『結いのおと』のチケットももっと売れると言われても、会場の規模を考慮して適正と思われる枚数しか販売していません」

「これ以上イベントの数や規模を増やすつもりもないんです。今の大きさを保ちながら、1回1回を深掘りすることを目指しています」

数字や派手さを競うのではなく、このまちを大切に思ってくれる人や店とだけ、丁寧に深く結び合いたい―――それが「結いプロジェクト」の方針なのです。

イベントが終わり、「ケの日」の表情を見せるまちなみ。このまちを心地よく目覚めさせるために呼びたいのは、大企業の工場ではなく小さな生業をもってまちに移住してくれる人。

今、普段のまちに彩を添えているのは、アーティストに依頼して作った暖簾。少しずつ増やし、現在13枚になった。

実はこの方針を取るのにはちゃんとした理由があります。2つのイベントでまちに「ハレの日」をつくり、結城の存在や魅力を広く知ってもらえるようになった今、次は「ケの日」、つまり「普段の日」のまちを活性化することへと駒を進めたいと考えているからなのです。

その第一歩として企画したのが、結城の地域資源を活用した起業や創業を促すための創業支援セミナー「城プロジェクト」です。同プロジェクトは、先輩起業家を講師に迎えて先行事例について学び、まちの空いている不動産を見学し、起業プランを練り、それを昨秋の「結い市」で発表してもらうというところまで進みました。

講師たちの厳しい批評やアドバイスで起業の現実を知った参加者たちは、今一度移住や起業を再考することにしたので、実現に至ったケースは出てきませんでしたが、「それも良かったと思います。よく考えて起業のリスクを減らし、長く結城に居続けてくれることが大事なんですから」と2人は言います。

でも、実は、ちゃんと具体的なイメージもあって・・・。

「まちの中心部で飲食店を開いてくれる人が移住してくれるといいなと・・・」

「おいしいものがあるたまり場を、まちなかにつくってほしいんですよね」

「そうすれば自然に人が集まり、集まった人がつながって、また次の展開が生まれていくはずだから」

「そうして、まちの後継者ができていく・・・」

「そう、まちの後継者をつくる。これが僕たちの大目標なんです」

確かに、確かに。そこに住む人が日々楽しく、豊かに幸せになることこそが本当のまち起こし。結城のまちは、それに気づいた若い力によって、「ケの日」も輝くまちへと歩き始めたようです。

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