ゼミナール

「住めば都」ゼミナール

わたしの居場所 ①

内田 卓さん×「地域リビング プラス ワン」

2016年10月3日更新

人には誰しも自分の「居場所」があります。
そこにいると、ほっとする。自分らしくいられる。
そこに行くと、生き生きと楽しく過ごせる。
それがかけがえのない「居場所」です。
その人ならではの居場所を訪ね、そこに詰まった思いや、
そこが大事な居場所になるまでの物語を聞いてみましょう。

3年半前にマンモス団地の一画に誕生した、食を核としたコミュニティスペース「地域リビング プラス ワン」。そのスターシェフ内田卓さん(通称たくちゃん)は、いまや「プラス ワン」になくてはならない存在。そしてたくちゃんにとっての「プラス ワン」も、また同じ。

東京・板橋区にある1万戸を超えるマンモス団地、「高島平団地」。昭和40年代に誕生し、当時は「都心にもっとも近い団地」として入居希望者が殺到しましたが、1992年をピークに人口減少と高齢化が進んでいます。そんな団地の中に3年半前に生まれたのが「地域リビング プラス ワン」。ボランティアスタッフが手作りする「おうちごはん」を一緒に食べながら、地域住民の交流や助け合いを生んだり、孤立を防ぐことを目指したコミュニティスペースです。今回の主役はここの人気シェフである内田卓さん、通称たくちゃん、79歳。料理が好きで、江戸っ子気質。それを慕う常連客もたくさんいて、まさに「プラス ワン」の顔です。

今日のランチはモロッコ風だとか。 珍しいお料理ですね?

そうだね。モロッコ料理ってのは「塩レモン」を使うのがポイントなの。塩レモンをベースにして、味を見ながら、順々にいろんなスパイスを入れていくの。レシピ? そんなもんないよ。料理のヒントはテレビや本からもらうけど、あとは自分なりに作る。なんせ1人前550円だから、いろいろ工夫しないとね。前の人が冷蔵庫に残している材料も使うようにしてる、無駄が出ないようにしなくちゃいけないからね。

いろいろなスパイスを加え、何度も味見をしながら完成させていくのがたくちゃん流。

サラダにかけているのは、茹ですぎたブロッコリーを使って即興で作ったオリジナルドレッシング。

これが本日のたくちゃんランチ、550円。ごはんのおかわりは自由。

提供する料理にこだわりはありますか?

季節とか行事は意識してる。土用の丑の日あたりにはうなぎも出すよ。でも予算の関係上うな丼は出せないから、うなぎのゴーヤチャンプルーにして出す。ゴーヤでかさ増ししてもうなぎはうなぎだもんね(笑)。

それから気遣いかな。たとえば前に出した料理にリクエストがあれば応じたり、「ある曜日しか来られない」というお客さんの来る曜日に当番になったら、なるべくその人の好きな料理を作って出したり、みたいなこと。この団地には中国からの留学生も多く住んでて、彼女たちからは「おとうさん」って呼ばれてるんだよね。

今日のデザートは、旬のぶどう。

お豆腐を切る大きさについても、「食べやすく、かつ食べごたえがあるように」、アシスタントさんの意見も聞きながら決める。

「プラス ワン」でボランティアをするようになったきっかけは何ですか?

団地の友達に「団地のアーケードに、なんか食堂みたいのができて気になるんだけど、たくちゃん、ちょっと様子見て来てよ」と言われてさ、それで偵察に来たのがきっかけ。その時に店に「ボランティア募集」の貼り紙がしてあるのを見て、「自分も何か手伝えるかな」って思ったんだよ。

料理が好きで、よく家に友達を呼んで宴会してたから、量をたくさん作るのにも慣れてたしね。そんなこんなでここで料理を始めたんだよ。それが3年ほど前。。

「プラス ワン」は、家のリビングにもうひとつプラスして地域にリビングを持つこと、そして毎日の暮らしに何かひとつプラスになることを願って付けられた名前。

店内は厨房も含めてわずか40m²。これが時に、食堂だけでなく英会話教室、ヨガ教室、学童保育室、音楽会場などになる。小さな大空間だ。

実は、ここに来るようになる前、連れ合いを亡くしてから4年ほどの間、麻雀店に入り浸りだった時期があったの。すでにリタイアしてるうえに一人になってしまって暇だったから。麻雀は麻雀で面白かったし、仲のいい麻雀友達もできたんだけど、ここに来るようになってからは、なぜかピタッと行かなくなっちゃった。ここで料理作ってると、頼りにされたり、喜んだりされるから嬉しいし、こっちのほうが性に合ってたのかもしれない。

今は、月に3回ほどはメインで料理をして、他の数回は他の人の手伝いをして、パーティーがあればその料理も作りに来るし、なんだかんだで月に半分ぐらいはここにいるかな(笑)。

ここにいると、ごはんを食べない人もやって来て、自由に過ごしていく。
それが普通の食堂と違うところ。

ユニークな味付けとレパートリー豊かな料理は次第に人気となり、たくちゃんが料理当番の日には必ずやって来る常連さんもできました。そんな中で新たに始めたのが、魚の共同購入です。「プラス ワン」で使う食材の仕入れも兼ねて、月に2度、築地市場に行って、注文に応じて魚を調達してくるというたくちゃんならではのボランティア活動です。

魚の共同購入のお世話もしているとか?

そう。ここの仕入れもあるし、築地が好きなのもあって、前からよく行ってたんだけど、それを知ったお客さんが『私の家の魚も一緒に買って来てくれない?』って言うもんだから、『ああ、いいよ』って請け負ったら、それが次第に広まって、共同購入に発展したの。

買って来てほしいお客さんは2日前までに注文を用紙に記入しておくと、金曜日の朝に俺がそれをまとめて買いつけて、夕方に市場から配達されてきたのをここに取りに来てもらうって、そういうやり方。

最近はお客さんも段々、注文がうるさくなって、あれが美味しいとか、こういうのでないと駄目だとか言うんだよ。月に2回行くんだけど、その日の朝は5時起きしなくちゃならないし、結構大変だよ(苦笑)。でもまあ、みんな喜んでくれるから、頑張ってる。けど、今度、市場が築地から豊洲に移転したら、今までよりずっと遠くて行きにくくなるから、どうしたもんかなあと思案してるところ。

買い物の帰りに立ち寄って共同購入の申し込みに来た主婦。この日はブランド指定で高級うなぎを注文。

店内に貼られた魚の共同購入の案内。メールでも電話でもなく、来店して注文する。

1年半前から、鍵っ子たちのための夕ごはんサービス、
「おかえりごはん」も始まりましたね。

そう、俺も作ってるよ。おかえりごはんは子どもたちのための食事だから、大人のお客さんが中心のランチとはまた違った気遣いが要るんだよね。たとえばアレルギーの問題があるし、スパイスの使い方も大人とは変えなくちゃいけないしね。大事な子どもたちだからね、よく気を付けていいもの食べさせてあげないといけないと思ってる。

親子一緒でも利用できる「おかえりごはん」は、子育て中の親の交流や情報交換の場にもなっている。

共働き家庭が増えて、放課後の子どもの居場所や夕食が親の悩みになってきていることから、昨年4月「おかえりごはん」を始めた。

たくちゃんにとって「プラス ワン」はどういう場所ですか?

「居心地がよくて、納得できる」。それがたくちゃんのボランティアの基準。

人の役に立てる場所で、みんなと一緒に過ごせる場所で、好きな料理の腕を奮える場所で、ボランティアしたら無料で食事もできるし、まあいいとこだよね。

実は、以前に一度、違う食堂(コミュニティカフェ)のボランティアに鞍替えしてみたことがあるんだよね。他の所ってどんな感じなんだろう、ひょっとしたらここより面白いんじゃないかなと思って。でもすぐに辞めて、ここに帰って来ちゃった。なんでかって言うと、そこはお酒もどんどん出してて、「これ、なんか違うな。ボランティアですることじゃないな」って思ったから。
ボランティアするって言ったって、なんでもいいわけじゃないんだよ。やっぱり自分なりの居心地の良さや、その場所に対する愛情みたいなものには、こだわりたいんだよね。

高齢化率が40%を超え、孤立や悩みを抱える住民も多い高島平団地。「プラス ワン」が果たす役割は、大きくなるだろう。

取材:2016年9月
撮影:狩野吉和(株式会社 フレンズ)

ようこそ、マリモリビングオープンキャンパスへ学長メッセージ 開校のごあいさつ