ゼミナール

「住めば都」ゼミナール

住めば都でした ③

蓮井祥子さん(呉服店女将)×高松(香川県)

2016年3月18日更新

縁あってある土地に巡り合い、自分らしく暮らしている。
そんな人を訪ねて、その土地の魅力や生活の様子、
そして日々の思いを聞いてみます。
そこはなぜ、あなたの「住めば都」になったのでしょうか。
人とまちと暮らし方へのこだわりが織りなす、
小さいけれど、思いがつまった物語を探し出しに行きましょう。

お店があるのは、近年最大級の再開発で全国的にも注目を集めた高松市屈指の商店街「丸亀町商店街」の隣。25年前にここに嫁いだ祥子さんは、ご主人との二人三脚で、時代やまちの移り変わりに飲み込まれない、そして乗り遅れることもない独自の店づくりに取り組んできた。

24歳で、高松で名店と知られる呉服店「や和らぎ たかす」に嫁いだ蓮井祥子さん(49歳)。女将業を仕込んでもらおうと思っていたお姑さんが、結婚後まもなく病気で他界。それから25年間、ご主人との二人三脚で、譜代大名の城下町であり、四国経済の中心地でもある高松の誇り高くこだわりの強い土地柄のなかで新しい顧客と商いのスタイルをつくりあげてきました。

24歳で呉服店に嫁いだ頃のお話を聞かせてください。

祥子さんは女将であり4児の母でもある。子どもたちが小さい時は店と自宅の間を駆け足で往復しながら商いと子育てを両立させた。今は長女が後継者に決まり、他の3人もそれぞれに選んだ道を歩いている。

私の実家は「まちの電気屋さん」で、和的なたしなみや素養を身に付けるような環境で育ったわけではなかったのですが、私はなぜか小さな頃からきものが好きで、きものを着たくてお茶を習ってたりしていました。ですから、偶然に呉服店の跡取りである主人と知り合って結婚しようという話になった時に、「お嫁に行けば毎日きものが着られる!」と思って無邪気にプロポーズを受けちゃったんですよね(笑)

本当はお姑さんに色々なことを教えてもらえたら良かったのですが、嫁いだ時にはすでに病気が重くなり始めていて、残念ながらそれはかないませんでした。そこでお客様からのご注文やご要望があるたびに、分からないことを本で調べたり、出入りの職人さんに聞いたりして、一つひとつ解決しながら仕事を覚えました。

きものを着ない人ともアクセスできるように呉服店の隣に「杜のとなり」という和のセレクトショップを開き、
またまちのオアシスとなるべく「たかすの杜」という庭園を設けている。コトを起こす時には、
まちの一員であることを強く意識しているという。

高松という文化度と誇りの高いまちで、先代の教えもなく若くしてお店を継ぎ、
大変だったのではないですか?

私自身が高松生まれだったので、このまちのことはよく分かっていました。譜代大名高松藩のご城下で茶道や芸事が盛ん。由緒あるお家も多く、審美眼や誇りも高いところです。それはすなわちお客様のハードルも高いということで、カリスマ的な女将だった先代が際立ったセンスと見識でお相手をしていたお客様は、若い私たち夫婦にはあまりに荷が重いものでした。そこで二人でさんざん悩んだあげく、ある結論を出しました。それは「これまでの蓄積に頼らず、退路を断って自分たちの店とお客様をつくる」ということでした。

今でこそ、お客様の雰囲気や好みを読んで似合いの反物をさっと取り出せるようになったが、かつては知識や接客がおぼつかず、オロオロするばかりだった。

当時、お店の入る自社ビルには4軒のテナントが入っていたのですが、そのテナントに退出してもらい、全部を呉服店として使えるように改装して自分たちの店づくりをすることにしたのです。もちろんテナント料収入も途絶えるわけですから、周囲からは「あまりに無謀だ」と止められたりもしましたが、主人は耳を貸しませんでした。あの時の主人の決意の固さは、今思い出しても驚くほどでしたね。

来店されたお客様にはまずお抹茶と和菓子をお出しして一服していただくことにしている。お菓子は、その日ご来店予定のお客様やお天気などに合わせて、ご近所の老舗和菓子店からふさわしいものを毎日買い求める。

このお客様は「たかす」コーディネートのファン。今日の羽織、帯、羽織紐も祥子さんおすすめのもので大満足だそう。

「自分たちの店づくりをする」と決めたご主人と祥子さんが選んだのは、工芸ギャラリーを切り口にした新しい顧客づくりだった。
それが成功した今は、お客様とまちと若い人たちのために「何かができる店」でありたいと思っているという。

新しいお店づくりはどのように?

まず2階につくった工芸ギャラリーに力を入れて、新しい店とお客様をつくるための突破口にしました。貸しギャラリーには一切せず、工芸の世界にいささか明るかった主人が「この人!」と思った作家さんの個展だけを開いて、その作家さんや作品に対する信頼や興味を取っ掛かりにして私たちのファンをつくっていったのです。地方都市の無名のギャラリーでしたから、最初は中央で活躍する作家さんたちの招へいに苦労しましたが、努力して実績をつくることで、作家さんにもお客様にも次第に認めてもらえるようになりました。

すると不思議に、呉服店のほうにも私たちの感性やきものに対する考え方に共感してくれるお客様が増えてきました。やがて呉服店とギャラリー双方のお客様が混じり出し、相乗効果で店全体がにぎわい始めたのです。そうなるまでに、店を受け継いでからたぶん10年ほどかかったと思いますが・・・。

「ギャラリーen」と名付けた2階ギャラリーの入り口。

ギャラリー全景。個展のテーマや作品によってディスプレイをがらりと変えて、作家の世界観も伝わるようにしている。この日は個展がなく、季節感のあるきものと帯を美しく展示してあった。

ギャラリーでは、独特の美意識をもつご主人が選ぶ個性的な作家や工房の個展が、年に6~7回開かれる。そのレベルの高さには定評があり、高松では「いつもチェックしておきたいギャラリー」として注目されている。上の写真は昨年開かれた個展の一部。
(左上)川添日記 草木彫り展、(右上)長谷川清吉 金工展、(左下)北欧の暮らし展、(右下)渡辺愛子 作陶展

何年かに一度、大きな店舗改装をしますね?
それに加えて、店の隣に杜(もり)をつくったりも。それはなぜですか?

利益をお客様とまちに還元するためです。店はまずはお客様のためのものです。お客様にとって常に心地よく、また新鮮な感動を得られる場所でないといけないし、自分がその店の顧客であることを自慢に思えることがいちばんのサービスだと思うので、利益が出たらまず店に投資することにしています。

1階のアプローチ。1回目の改装の時にはより多くのお客様に気軽に入ってもらえる店にするために明るく開放的な設計にしたが、2回目の改装ではこのように接客スペースを壁で囲い、ほの暗いなかでゆっくりと心地よく商品を見られる空間設計にした。

店内の隅々までに気が行き届いており、ディスプレイがいつも隙なく決まっているのもこの店の特徴。

また、建築が大好きな主人は、香川県で頑張る若い建築家を育てるためにも店の定期的な改装を続けたいと言っています。私たちが店を受け継いでから25年間で6階建ての店舗ビルに5回の大改装を施しましたが、5回とも全部県内の若手建築家に設計を依頼して、自分の作品をつくる感覚で仕事をしてもらいました。ですから彼らはよく施主さんをこの店に連れて来て、自分の設計したフロアを見せながら施主さんにプレゼンテーションしたり説明したりしています。主人にとってはそういう使われ方こそが「我が意を得たり」なんですよね(笑)

店奥にももうひとつ接客スペースがある。こちらでは着装をしたり華やかな絵羽ものの商品を見たりするので、広々とした明るめの空間になっている。

10年ほど前に、店の横に「たかすの杜」と名付けた庭園をつくった。ゆくゆくは茶室を建て、まちの人たちと庭を楽しみながら茶会を開きたいと思っている。

次に大事にしているのは、まちや地域の人に貢献する店になることです。たとえば杜は、ここ(店のある場所)がまちの真ん中で自然が少ないので、道行く人が杜の花木を見て癒されたり、ちょっと休憩できる場所、いわゆる「まちのオアシス」が提供できたらいいなと思ってつくりました。まちなかで育つ子どもたちが植栽や植木鉢でない木や花や葉っぱに触れて、その感触や四季の移り変わりを知る場所になればそれもいいねと、主人と話しています。

これからしたいことは何ですか?

実は、若い女性のための寺子屋を開きたいなと思っているんです。日本女性として身に付けておきたい「たしなみ」や「所作」や「家事」が学べる学び舎のようなものです。時代に逆行するような話かもしれませんが、今、日本ではこうした「日本的な美しさや賢さ」があまりにもないがしろにされていて、それと一緒に日本人女性としての誇りや自覚がどんどん失われているよう気がするのです。きものという日本の美の象徴を商っている身としても、娘をもつ母親としても、そのことを憂うる気持ちが強くあり、たとえ微力でも私なりに何とか役に立てないかと思っているのです。

祥子さんが今いちばん心を奪われているのは、日本の美と所作を結集させた茶道。こうした日本の伝統的なたしなみを、若い女性に教え伝えるための学び舎を開くのが夢。

勤続15年の山下桃子さんは、祥子さんの右腕となるスタッフ。時には女同士のおしゃべりや悩み相談もできる心強い存在。

や和らぎ たかす

香川県高松市今新町1-4 Tel 087-821-6341 10:00~18:00 日曜、第1・3月曜日休
http://www.takasu.cc/

取材:2016年2月
撮影:狩野吉和(株式会社フレンズ)
写真提供:や和らぎ たかす

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