まりも図書館

5月の2冊

「ミナを着て旅に出よう」 皆川 明

「窓がわかる本 設計のアイデア32
中山繁信・長沖 充・杉本龍彦・片岡菜苗子

2017年5月1日更新

「ミナを着て旅に出よう」

皆川 明 著

新緑の季節、遠出はむりだけど心をどこか遠くへ旅させたい—— そんな気分のときに。と言ってもこれは旅のガイド本でも旅の洋服指南の本でもない。ファッションブランド「ミナ ペルホネン」のデザイナー皆川 明さんが、服を作る仕事を始めるようになったいきさつから、27歳で立ち上げたブランド「ミナ」について、またライフスタイルに共鳴して旅を重ねた北欧の魅力などについて、誰に語るともなく語った一冊である。それもとびきり端正で優しい語り口で。

最初のブランド名となった「ミナ」は、フィンランド語で"自分"という意味。フィンランド観光局で買った辞書でこの単語を見つけたとき、「もちろん皆川のミナにも引っかかっていいなと思ったし、女性らしい名前にも惹かれた」という。その後2003年に、"ちょうちょ"を意味する「ペルホネン」と合わせて「ミナ ペルホネン」へ。ミナの洋服のファンでなくても、例えば青森県立美術館や東京スカイツリーのユニフォームなどで目にした人もあるかもしれない(司書まり子も、初めて皆川さんがデザインした洋服を間近で見たのは青森県立美術館の制服だった)。

ふんわりしたデザインや空気感から、"ミナの服は女の子らしくてフェミニン"といわれることが多いが、皆川さんは「女性らしさを直接的なモチーフで表現しようとは思わない。むしろそういうものを感じさせないモチーフでフェミニンな感じを表現できたらいい」と語っている。実際に、人気のファブリックの一つ「yuki-no-hi(雪の日)」は、電柱の続く街並みに雪が降っていて、揺れる電線に小鳥が身を寄せ合っているという図柄だが、「電柱にしても全然女性らしいモチーフではないけれど、その情景をきれいだと思う気持ちのほうが、きっとものを作るうえでは大事なんだと思う」。
さらに、この雪景色は実際の情景をそのまま写したものではなく、幼い頃にブランコを漕ぎながら見上げた空や、電車の窓から空を見上げたときに波打っているように見える電線の記憶が、ずーっと頭のどこかにしまわれていて、あるときふっと浮かんできてファブリックとして蘇ったというのだ。"記憶"という言葉は、皆川さんのものづくりの大事なキーワーであるようで文中にも幾度も登場する。

デザイナー皆川 明の誕生物語も、ミナの洋服のイメージを裏切って面白い。例えば子どもの頃は柔道と陸上をやって体育大学進学を目指していた(骨折で断念)という話や、文化服装学院の夜間部を卒業後、デザイナーズブランドや大手アパレル会社に就職することなく縫製工場でアルバイトをし、27歳でミナをスタートさせたものの最初は食べていけなくて、朝4時から11時まで魚市場で働いたという話。魚や貝の柄を観察し、「特にアサリは絶対に同じ柄が一つもないんです。アサリを仕分けするときに、それに夢中になって、こっそりいくつか持って帰ったりもしました」という姿は想像すると微笑ましいが、30歳でミナが独り立ちするまで「このまま寿司屋になるのかなぁ」と思う日もあったとか。

巻末の松浦弥太郎さん(「暮しの手帖」前編集長)との対談も楽しい。同世代で本屋と洋服屋という違いはあるものの、共に"長いスタンスでものを見る"という共通点が、今の時代は少数派であるだけに響き合っているように感じられる。ちなみにタイトルの『ミナを着て旅に出よう』は、松浦さんの序"皆川さんを思うと、どうしてこうやって旅の事ばかりを思うのだろう。それはきっと皆川さんが作るミナが、旅の時間を感じさせるものばかりだから"から付けられた。この一冊もきっと、旅の時間を感じさせてくれると思う。余談ながらミナ ペルホネンはこの春、「マテリアリ(素材)」という名前の新しいお店を東京・代官山にオープンした。インテリアの世界にも豊かな時間を提案してくれそうだ。

みながわ・あきら
1967年東京生まれ。文化服装学院卒業後、95年に自身のファッションブランド「mina(ミナ)」を設立。2003年、ブランド名を「mina perhonen」と改める。オリジナルファブリックから作り上げる唯一無二の服作りが国内外で高く評価される。著書に『皆川明の旅のかけら』(文化出版局)ほか。

文春文庫・本体460円+税

「窓がわかる本 設計のアイデア32

中山繁信・長沖 充・杉本龍彦・片岡菜苗子 著

『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんが、ある新聞コラムでこう書いているのが目に留まった。「旅行がしたくて、窓を作ったこともあった。色鉛筆で描いた山や川が後ろに流れていく様子に、"本当に電車に乗っているみたいだ!"と興奮した」。なるほど、こんな手があったのか。

窓を作るなら、どんな窓がいいだろう? 大きい窓、小さい窓? 縦長の窓、横長の窓?眺める窓、隠す窓? 飾る窓、内を見せる窓というのもあるだろう。本キャンパスの名物ゼミ「こう住む、ああ住む」対決よろしく窓についてあれこれ思い巡らせているとき、一冊丸ごと「窓」の本を見つけた。『窓がわかる本』は副題に"設計のアイデア32"とある通り、窓を活かす32通りのアイデアとデザインを中心に、窓の歴史や基本知識が豊富なイラストとともに丁寧に解説されている。

例えば写真は、窓辺を楽しむアイデアの「03 男の憧れ、ミニ書斎」のページ。本文曰く、「住宅を計画している時に、最初にキャンセルの対象となるのが父親の書斎である。主婦コーナーや子ども室がその対象になることはない」。そんなかわいそうなお父さんのために、出窓の一角を書斎にした案。出窓の部分に机を置き、壁面から部屋の内側45センチほどの位置を、障子で軽く仕切って作った広さ1畳ほどの書斎コーナー。コーナーだが、障子を閉めると独立した小部屋になるのが隠れ部屋のようでお父さんを喜ばせそうだ。机をカウンターに見立ててホームバーにする手もありそう‥‥などと、3方向からのイラストを眺めながらイメージが膨らむのがいい。

眺めたいけど、覗かれるのは心配。大きければ光はたっぷり入るが、冷暖房に負荷がかかる。相反する条件を満たさなければならない窓のデザインは、専門家といえども建築のデザインにおいて最も難しいと言われているという。「18 光と風と視線を制御する」で紹介されている無双窓は、日本の伝統的な民家などに使われてきた窓の形式で、そうした採光や通風のコントロール、視線の調節、防犯などを備えた優れものの窓。バスコートの塀の上に無双窓を設けたプランが紹介されているが、入浴時は閉めた状態に、お風呂上がりにバスコートでピールを一杯という時には格子板をずらして開けた状態に。窓というものを、内と外とを遮ったり融和させたりとフレキシブルに活用するアイデアは、これから再度見直されていくのではないだろうか。

本書は主に設計者の卵を対象に書かれているようだが、これから家を建てる人、マンションを買う人、リフォームする人はもちろん、窓辺を楽しむアイデアや建具や間仕切りを使いこなすアイデアなどは模様替えの参考にもなりそう。何ごともきちんと勉強してから、という人にオススメの一冊。司書まり子も早速「窓辺につくる小さな畑」にトライしようと思う。

著者
なかやま・しげのぶ

法政大学大学院工学研究科建設工学修士課程修了。宮脇檀建築研究室を経て、現在、(有)TESS計画研究所主宰。『住まいの礼節』『手で練る建築デザイン』ほか著書多数。

ながおき・みつる
東京芸術大学大学院美術研究科建築専攻修士課程修了。現在、長沖 充建築設計室主宰。

すぎもと・たつひこ
工学院大学大学院修士課程修了。杉本達彦建築設計事務所主宰。

かたおか・ななこ
日本大学大学院生産工学研究科建築工学専攻修了。現在、篠崎健一アトリエ勤務。

学芸出版社・本体2200円+税

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