まりも図書館

2月の2冊

「天動説の絵本 -てんがうごいていたころのはなし-安野光雅

「宇宙災害 太陽と共に生きるということ片岡龍峰 著

2017年2月1日更新

「天動説の絵本 ―てんがうごいていたころのはなし―

安野光雅 著

天文ファンでなくても私たちは物心ついた頃から知っている。"回っているのは太陽ではなくて地球である"ということを。"地球は丸い"ということを。天と地がひっくり返るほどの驚きを持って知る前に、理科の時間にあっさりと習ったのかもしれないし、もっと幼い日に年上の誰かからこっそり教えられたのかもしれない。くるくる回る地球儀を遊び相手にいつともなく"分かって"しまった人もいるだろう。

地動説という常識に到達するまでに、「天動説を信じていた時代の人びとは、何を考え、どのような暮らしをしていたのか」。安野光雅さんは、"地球が丸いことを前もって知ってしまった子どもたちに、いま一度地動説の驚きと悲しみを感じてもらいたい"と願って、この『天動説の絵本』を描いたという。

「小さな国がありました」で始まる物語は、太陽のもとで自然と共に暮らす人びとの平穏を描く。大地は真っ平ら。ただ夜になると、大きくなったり小さくなったりする月の謎にかすかな不安を抱き、海の果てがどうなっているのかに怖れを持つ。この国の天文学者は「星占い師」。どうして太陽や月や星は落ちてこないの、という人びとの問いに"お茶碗のような丸天井にはりついているからだよ"と答える。
印刷技術のない時代。本というものさえ見たこともない人びとは"天は動かない、自分の立っている地面の方が動くのだ"という本を書いた天文学者のことなど知るよしもない。

ペストが流行り天災が起こると、悪魔や魔法使いのせいにする人びと。顕微鏡のない時代のこと。人びとの不安や欲望とともに現れるのは錬金術師。しかし誰にも金をつくることはできない。船乗りたちが、"海の向こうからやってくる船が帆先から見える"と言いだした頃、北の天文学者が"地面は丸く、地面が動く"と言い始める。そこからの天文学者(コペルニクスやガリレオ)たちの苦悩や畏れや無念さは、知識としてはよく知られた話だけど、この本の主役はあくまで人びと。どのページにも、その時代の人びとの暮らしが懸命に生きる"人間"の姿として表れている。水を運ぶ人、斧を砥ぐ人、うさぎを売る人。その人たちと同じ地面に天文学者もいる。

安野ワールドのファンならすぐに気づくと思うが、最初に"真っ平ら"だった地面がページをくるごとに丸みを帯び、最後には‥‥。何度見返しても発見があり飽きることがない絵。巻末に「年表とおぼえがき」があり勉強になるが、安野さんが繰り返し言う通り"知っていることと、分かっていることは違う"。地動説を私たちは知っているけれど、分かってはいないのかも。読後、司書まり子もそう自問している。1979年初版だが、丸い地球が分断されつつある現代こそ読み返したい1冊。

あんの みつまさ
1926年 島根県津和野に生まれる。教員生活の後、68年「ふしぎなえ」(福音館書店)を発表。芸術、科学の領域を越えて自在に遊び、その作品は年齢、国籍を問わず世界中の人々に愛されている。作品に「10人のゆかいなひっこし」(童話屋)「はじめてであうすうがくの絵本」(福音館書店)他多数。

福音館書店・本体1500円+税

「宇宙災害 太陽と共に生きるということ

片岡龍峰 著

生涯に一度でいいから自分の目で見てみたいものって? その回答の中に"オーロラ!"というのが少なからずあるのではないだろうか。それはアラスカのフェアバンクスやカナダのイエローナイフ、北欧などオーロラの名所への観賞ツアーの盛況ぶりからもうかがえる。美しさや幻想、憧れの対象として捉えられがちなオーロラだが、本書の入り口には「私たちが、これからも地球で健やかに生きていくためのヒントは、流星やオーロラにある」と書いてある。さらに、「オーロラのダークサイドを、ゆっくりとリラックスして楽しんでいただければ」と。

著者の片岡龍峰さんは国立極地研究所の准教授で、オーロラや宇宙災害の研究者。国立極地研究所は南極・北極についての研究と極地観測を行っているところで、折しも今年は南極「昭和基地」開設60年で注目されている。
本書のタイトルになっている宇宙災害とはどんなものだろうか。第一章で具体例が羅列されている。通信途絶、衛星墜落、デブリ事故(デブリは宇宙ゴミ)、隕石落下、オゾン破壊、宇宙飛行士の放射線被ばく、世界停電。これが面白い。記憶にある地球規模の大ニュースを取り上げながら難しい理屈はどんどん後回しにしてあるので、物理が苦手な文系人間でもスラスラ読み進めるのである。例えば「オーロラと衛星の墜落には、どんな関係があるのだろうか?(53ページ参照)」「なぜオーロラや磁気嵐に関連して、電力運用が狂うのか?(71ページ参照)という具合。

第二章では冒頭の「オーロラのダークサイド」を知る上でも重要な、三つの槍と三つの盾について分かりやく解説されている。生命に悪い影響を及ぼすのは宇宙塵、紫外線、宇宙線。反対に生命を守っている三つの盾は、大気、地磁気、太陽風。そしてこの三つの盾こそ、オーロラが発生するための三要素でもあるのだ(試験に必ず出そう?)。「まとめると、太陽風と地磁気の相互作用が、磁気圏と電離圏を接続する立体的な電流回路を生み出し、その電流を受け止めた大気が発光するのがオーロラである。」ちょっと難しくなってきたな‥‥というところで必ず、模式図やグラフが挿入されているのも有り難い。豊富に引用されている漫画や映画、(漫画『ベルサイユのばら』『プラネテス』、映画『ガタカ』『インディ・ジョーンズ/クリスタルスカルの王国』『コクリコ坂から』『インターステラー』など)、著者のスナップ写真からも親しみを感じる。

司書まり子が一番印象に残ったのは、なんと宮廷歌人の藤原定家(1162-1241)がオーロラを目撃していた、というエピソードである。『明月記』の1204年2月21日の日記に「天晴る。病気甚だ深い。(中略)燭をとりし以後、北ならびに艮(引用者注:うしとら、北東)の方に、赤気あり。その根は月の出る方のごとし。(中略)奇にしてなお奇とすべし。恐るべし。恐るべし」と、さらに2月23日にも「燭をとりし以後、北と艮の方にまた赤気あり」とある。赤気とはオーロラのことで、日本でオーロラが連日見られた最古の記録になっているという。このように時空を超え、また理系、文系などという低い垣根を超えてオーロラを研究し、将来の宇宙災害に備えようという動きが始まっている。

最後にオーロラを一見したいという方に。関野吉晴さんが主催されている「地球永住計画」連続講座の第24回目の講師として登場された片岡さんは、「実は現在、100年で5%というペースで地磁気が弱くなっているので、オーロラツアーに行くなら今年か来年に」とおっしゃっていた。

かたおか・りゅうほう
1976年宮城県仙台市生まれ。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。NASAゴダード宇宙飛行センターなどを経て、現在、国立極地研究所准教授。2015年に文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞。著書に『オーロラ!』(岩波書店)がある。

化学同人・本体1,500円+税

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