まりも図書館

8月の2冊

「テーブルに何もない日
気持ちいい暮らしのスタイルブック岸本 葉子

「俳句発想法 歳時記 夏」 ひらの こぼ

2016年8月1日更新

「テーブルに何もない日 気持ちいい暮らしのスタイルブック

岸本 葉子 著

大きなテーブルがほしい———。それは家族や友人と囲むダイニングテーブルであるかもしれないし、資料や本を気兼ねなく広げてパソコン作業や書き物ができるデスクかもしれない。目的がなんであれ、たとえば引っ越しを機に大きな広々としたテーブルがほしいと思う人は少なくないのではないだろうか。ひとり暮らしの著者もそう願い、今の家に引っ越したとき、「落ち着いた色の木でできた四人掛けの」「両端に椅子を持ってくれば六人でも囲めそうな」テーブルをリビングに入れたという。

著者の岸本葉子さんは、20代から50代になった現在に至るまで、そのときどきの生活エッセイを数多く発表しつづけている人気エッセイスト。食、旅、暮らし、最近では俳句、と多方面にわたる題材のなかでも、"ひとり暮らし"を中心にすえた文章からは、強がるでもなくましてやイジケルでもなく、すがすがしい読後感が漂う。ロシア語通訳で作家だった故米原万里さんが、『打ちのめされるようなすごい本』(文藝春秋)のなかで、岸本葉子さんの文章について、———サラサラと小川がせせらぐように澄み切った、淀みない文章———と書いていたのが、司書まり子の心に残っている。(余談だが、自分のことでは一滴も涙を流さなかった米原さんが、岸本さんの『がんから始まる』(晶文社/文春文庫)を読み、声をあげて泣いた、という)

本書の副題は"気持ちいい暮らしのスタイルブック"。岸本さんが「もっとすっきり暮らしたい。でも、ほっとする部分もほしい。シンプルでスリムな暮らしは理想だけど、削ぎ落としすぎるのはさびしい。なごめるモノもそばに置きたい」という揺らぎのなかから見つけ出した、ほどよいスタイルの一例が、易しい文章と沼畑直樹さんのノスタルジックな写真とで紹介されている。
活字ばかりの本は暑苦しい……という人にもおすすめできる、夏の読書にぴったりの1冊。清涼感を与えてくれると太鼓判を押したい。

さて、冒頭の岸本さんの大きなテーブル。「ゆとりのある油断からか」、ついついモノを載せてしまっていつの間にか「物載せ台」に。そこで著者が思い立ったのが、テーブルに何もない日をつくろうということ。たとえ週に一日でもテーブルに何もない日をつくることで、「その一日で内面もリセットし、次の週へとまた進んでいけるのです」。他に、迷子にならない洗濯ばさみ、香りとの付き合い方、鳥のいない鳥かご、メールをしない日、あした着る服、など平易なタイトルからも著者らしさがうかがえる。 司書まり子もこの原稿を書く前に、テーブルの上をまっさらにしたことは言うまでもない。

岸本 葉子(きしもと ようこ)
エッセイスト。1961年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、会社勤務、中国留学を経て執筆活動に入る。著書は『ブータンしあわせ旅ノート』(角川文庫)、『ちょっと早めの老い支度』(オレンジページ、のちに角川文庫)など多数。

発行 ミスター・パートナー/発売 星雲社・定価1300円(税別)

「俳句発想法 歳時記 夏」

ひらの こぼ 著

今月の「用と美」ゼミナール、「モノ探訪」で取り上げられている奈良団扇が興味深い。司書まり子にとってウチワといえば、街角で押し付けられるようにもらう広告入りのプラスチック製のもの。そのへんに置いて、外出から戻ったときなどにパタパタと無造作に扇ぐ。詩情も風情もあったものじゃない。 ところが、はら助手の探訪記によると、高松塚古墳西壁の女子群像には団扇を手にした女性が描かれており、どうやら儀式や祭礼に使われるものだったというではないか。そういえば、「団扇」は夏の季語だったか……と、手元にある『俳句発想法 歳時記 夏』を開いてみる。

俳句の素養のない司書まり子だが、このハンディな歳時記[春][夏][秋][冬]4冊は、季節ごとに手の届く書棚へ置いて愛用している。季節の言葉が気になったとき、ふと日本的な情緒を適確な言葉に置き換えたいと思ったとき、そして、アタマが硬くなった(発想が乏しくなった)と感じるとき。
従来の歳時記が季語と例句の羅列だけなのに対して、著者のひらの こぼ氏が本書のねらいとして書いているように「発想の型を学べる句を中心に例句を選んでいる」ところがいい。1つの例句の後ろに同じ発想の句が3つ程度並び、鑑賞するだけで楽しいのも気に入っている。

さて、「団扇」。
本書では、時候、天文、地理、生活、行事、動物、植物のくくりのうち[生活]のなかにあり、冒頭の例句は

桟橋に出て夕凪の団扇かな 水原秋桜子

「団扇ひとつでぶらりと出かけました。」と、著者の解説はたったのこれだけだが、情景を切り取るヒントとしては十分。そのほか、歓談の場面と団扇、人物スケッチと団扇、気持ちの鎮静と団扇などの切り口と例句が並んでいる。

著者の、ひらの こぼ氏は、『俳句がうまくなる 100の発想法』など「俳句発想法」シリーズでとりわけ俳句入門者に支持されているほか、前職コピーライターの面目躍如たる『究極の文章術』(草思社)も。何を隠そう、本キャンパスで活躍するマリモライター(多くがコピーライター)の大先輩でもある。

ひらの こぼ
1948年京都生まれ。大阪大学工学部卒業。汽船会社設計部を経て、1973年広告制作会社へコピーライターとして入社。奈良市在住。俳句結社『銀化』同人。著書に『俳句がうまくなる100の発想法』『俳句開眼100の名言』(草思社)など。

草思社文庫・本体760円+税

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