まりも図書館

5月の2冊

「坂 茂の家の作り方」 くうねるところにすむところ30
坂 茂

「8号室 コムナルカ住民図鑑」
ゲオルギイ・コヴェンチューク 片山ふえ 訳

2016年4月28日更新

「坂 茂の家の作り方」 くうねるところにすむところ30

坂 茂 著

狭くて足が伸ばせなくても、エコノミー症候群の危険があることを承知していながらも、体育館などの避難所よりマイカーで寝泊まりすることを選ぶ人がいる。それほどにプライバシーを確保できない空間で生活することは辛いことなのだと思い知らされる。3.11で紙の間仕切りシステムというものを初めて知った司書まり子。難民や被災者のための「すむところ」を提案し続ける坂 茂さんの家づくりの本を再度開いて考えた——家とはなんだろう。

本書のシリーズ名は「家を伝える本シリーズ:くうねるところにすむところ」。家の存在感が小さくなり家が力を失う時代に、建築家が家のあり方を子どもたちに問いかける(対象年齢を14歳に設定)ことを目的に発刊された。 『坂 茂の家の作り方』では、紙管の建築家として知られる坂 茂さんが、さまざまな「家のかたち」を紹介する。例えば、紙の性質をよく活かした「家のかたち」として、紙の柱に囲まれた「紙の家」、阪神大震災によって家を失った元難民のベトナム人のための仮設住宅「紙のログハウス」(表紙のビールケースを基礎にした家)、そして熊本地震被災地にも提供された「避難所用 紙の間仕切りシステム」。

紙、紙管という構造材の性質を、しなやかに受け止めた文章に司書まり子は心打たれた。「紙ならどこでも手に入りやすい。紙なのに筒状に巻いてあるのでとても強く、軽く、運びやすい。紙なのでとても柔らかな感じがする。」そんな紙が、避難所という活躍すべきところで多くの小さな家を生みだしている。

紙以外にも、「竹の家具の家」、「シャッターの家」、「カーテンウォールの家」など。成るべくして成った家のかたちは、シンプルで美しいものだと、家の写真と鉛筆のラフスケッチを見比べながら思った。この本を読んで、建築家になりたい、家をつくる人になりたい、と思った14歳は少なくないだろう。

坂 茂(ばん しげる)
建築家。1957年東京生まれ。アメリカで建築を学び、1985年坂茂建築設計事務所を設立。2009年日本建築学会賞作品賞、2014年プリツカー賞など数々の賞を受賞。

平凡社・本体1,900円(税別)<現時点で在庫切れ>

「8号室 コムナルカ住民図鑑」

ゲオルギイ・コヴェンチューク 著 片山ふえ 訳

ゴールデンウィークには日常を離れて「読書らしい読書」を楽しみたい——そんな人にお薦めなのが、まりも図書館初のロシア文学。ロシア文学といっても、ハンディなサイズに100ページ余りの薄さ、ご覧の通りインパクトも量もたっぷりの挿絵。それでいてハードカバーで表紙もお洒落なので、これは旅先の駅のベンチや町のカフェで手にする姿もサマになろうというもの。

レオニードとカーチャの暮らしは幸せなものではなかったらしい。もっとも、ほかの人たちより悪い暮らしをしているようには見えなかったが。衣にも食にも困っていなかったし、十四平米の小さな部屋はいつも改装したてのようにきれいだった。高い天井は油性ペンキで真っ白に塗られていて(当時アパートでは、天井を油性ペンキで塗るのがお洒落とされていた)、レースのカーテンとピカピカに磨かれた大きな窓ガラスの向こうには……

著者のゲオルギイ・コヴェンチューク(1933〜2015)は、「ガガ」の愛称で親しまれ、昨年2月に81歳で世を去った画家、エッセイスト。訳者の片山ふえさんの仕事を通して日本でも知る人ぞ知る存在で、一見無造作なそれでいて味わい深い絵にファンが多い。司書まり子もそのひとり。『8号室 コムナルカ住民図鑑』は、そのガガさんがレニングラード(現在のペテルブルグ)の共同アパート(コムナルカ)に住んでいた1968年に書かれたエッセイである。

さて気になるタイトルの「8号室」。1室と思いきや実は8号室には部屋が10室あった!? この謎を解くには、コムナルカが何かを理解しなくてはならない。ロシア革命後、大きな建物は表通りに面した立派な部分と、裏庭に面したみすぼらしい部分に真っ二つに分けられる。その裏側をひとつ十五平米くらいに仕切ったのがコムナルカ。そこにガガさんは20年ほど暮らしていた。

8号室で一緒に暮らした人々は年齢も職業もまちまち。画家、教師、図書館の司書、仕立て屋、トラック運転手、食堂のおばさん、民警、電気技師。赤ちゃんも幼稚園児も年金生活者も、みんなの猫も。共同の便所や台所を舞台にした悲喜劇。30年後にこの共同アパートを訪れたガガさんは、エピローグの中で語る。「私の脳裏にたちまち思い出がどっとあふれ出した。学校、スターリンの死、大晦日の夜、学生時代のパーティ、結婚、息子の誕生、子守り女——」。自分とは違う人が主になった共同アパートにも、そこに暮らした日々の記憶が宿っていた。そう、ふくろう学長の言う通り、家は記憶の容れ物。

ゲオルギイ・ワシーリエヴィチ・コヴェンチューク
レニングラード生まれの画家、エッセイスト。日本では『俺の職歴〜ゾーシチェンコ作品集』(群像社)の挿絵や『ガガです、ガカの〜ロシア未来派の裔ゲオルギイ・コヴェンチューク』(片山ふえ著、未知谷)で知られる。

群像社・本体1,200円(税別)

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