まりも図書館

4月の2冊

「美しい住まいの教科書」 デザインミュージアム 編 山下めぐみ 訳

「60歳で家を建てる」 湯山重行

2016年4月1日更新

「美しい住まいの教科書」

デザインミュージアム 編 山下めぐみ 訳

4月といえば新学期。新学期といえば教科書。真新しい教科書を手にしたときの身が引き締まるような感覚は、小学校の低学年の頃からすでにあったように思う。不思議だけれど……。大人の学校、マリモリビングで使う教科書を妄想していたときに思い出したのが、『美しい住まいの教科書』(タイトルからは"美しい住まい"ともとれるし、"美しい教科書"ともとれるけれど)。コンパクトな1冊の中に、家の定理、過程、素材ごとの機能の歴史が世界の著名住宅を例にあげて綴られる。

「立地」の章より

ガラスの箱を鉄骨が支えた高床式構造で知られる、ミース・ファン・デル・ローエの設計「ファンズワース邸」(1951)は、週末用の別荘としてイリノイ州の森林の川辺に建てられたものです。この家は、外から見れば景観のなかに建つオブジェでもあり、中からは景観を切り取って眺めるためのフレームであると………

デザインミュージアム(Design Museum London)は、1989年にテレンス・コンラン卿によってロンドンに創立された、モダンデザインを専門とするミュージアム。http://designmuseum.org 本書の原題は「How to design a House」とあるように、主に住宅設計をする人に向けて編集されている。表紙の印象的な建造物は、ル・コルビジェと並び20世紀を代表する建築家、ミース・ファン・デル・ローエの「住宅」。オブジェのように見えるけれど、ちゃんと中心部にはキッチンからバスルームまでが組み込まれている。白い鉄骨とガラスと緑の調和が美しい。

ほかにも、家の元型(心理学でいうところの)的フォルムの「ルーディン・ハウス(1997)」、ウィリアム・モリスの私邸として有名な「レッドハウス(1860)」、オランダ絵画の中の家、三日月型の建物を入れ子にした「クレセントハウス(1999-2000)」、木を用いる家づくりの例として京都の町家、紙管を構造材として使った、坂 茂氏設計の「紙の家(1995)」などが事例として取り上げられている。住宅設計に携わる人ならずとも、眺めているだけで、家って、住まいっていいなぁと思わせてくれる1冊。

ふと、表紙カバーを外してみると……箔押しの銀色の家が現れた。本のつくりまでも、楽しく美しい。

エクスナレッジ・本体1,800円+税

「60歳で家を建てる」

湯山重行

すまい相談室・近藤典子さんの「4月の回答」の中にも出てくる"減築"という言葉。広めたパイオニアのひとり、建築家の湯山重行さんの新刊が目に留まった。著者いわく、「2004年にリフォームをテーマにしたテレビ番組で、子どもが巣立ち、ご主人にも先立たれ、大きなお屋敷にひとり取り残されたクライアントに出した答えが"減築"であった」。数年後には「アラ還」世代に入る著者の湯山さん(1964年生まれ)自身が、"60歳の身の丈に合った必要十分な家とは?"について考え、建築家として家づくりに役立つコラムを満載したエッセイ。

旅の支度なら楽しい

たまった身の回りのモノたちは、ある意味、独自のコレクションであり、思い出の詰まったモノばかりのはず。年を取ってから整理するとなると気持ちの整理も大変で、ましてや「終活せよ」なんて言われたら、涙なしではなしえない大仕事になりそうだ。

しかし、これからの人生を快適に暮らす、新しい空間に持ち込むべき荷物を選別する作業だと考えれば……

プロフィールに建築家・エッセイストとあるのも頷ける。軽妙で、具体的で、エピソードにあふれていて、かといって自説を押し付けるでもなく、しかしヒントやアドバイスはたっぷり。たとえ60歳でなくても、いつか家を建てる、マンションを購入する、という夢や目標を持っている人なら、水先案内になりそうだ。

著者がひとつのアイデアとして思い立ったのが、質のいい人生を送るためのポテンシャルを秘めた、シンプルでコンパクトなフラットハウス(平屋住宅)。名づけて「60(ロクマル)ハウス」という。平屋のメリットだけでなく、デメリットもきちんと箇条書きにされている。・狭小地には適さない・就寝時のセキュリティー・建築費が少し割高・土地活用の効果が低い、と。平屋の仲間ともいえるマンションとの比較もあり、マンション派も興味深く読めるのでは。
後半では、より具体的に「60ハウス」の間取り、建築費、オプション、外構について説明されている。

司書まり子が、著者のモノの持ち方哲学を感じた部分が上の写真ページ。思い出の詰まったモノを整理するとき、「旅の支度だと思えば、だれでも前向きな気持ちで取り組める」というところ。次の住まいを、ひとつの旅先くらいに気軽に考えるのもひとつの有り様かもしれない、と思わせる。

毎日新聞出版・本体1500円(税別)

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