まりも図書館

3月の1冊

「トイレのおかげ」 森枝雄司 写真・文 はら さんぺい 絵

2016年3月18日更新

「トイレのおかげ」

森枝雄司 写真・文 はら さんぺい 絵

今月の「五感インテリア」ゼミナールで、谷崎潤一郎の名著『陰翳礼讃』をひもときながら、瞑想空間としてのトイレを解いてくれたなかむら助手。ふわりとした平澤朋子さんのイラストと相まって、上品でアカデミックなトイレ空間の提案がなされている。そんなムードをぶち壊すのではないか……と、このリアルな表紙を見て一瞬ひるんだものの、ページを開くとそこには、司書まり子が知らなかったトイレの歴史から作法までが優しく語られて———

表紙のユーモラスな人形たち。これは、スペイン、カタルーニャ地方独特のクリスマス人形で「カガネー」という。(日本語の"かがむ"とちょっと似ている?)著者の森枝雄司氏は、デザインの仕事のかたわら、バルセロナの建築、美術を探検する中でこの人形に出合う。子どもの頃、学校でトイレの個室に入るのが恥ずかしく、教室から離れたところにあるトイレに、こっそり行ったことがあるという著者は、"どうして、こんなにおおっぴらに表現されているのだろう"と不思議に思い、外国のトイレや昔のトイレを知る旅にでる。

言い伝えをもとに東司(とうす)の使い方を絵にしてみると・・・・・。

4. そなえつけられたおけに水をくみ、それを右手に持って左手で戸をあける。
5. はきものをはきかえ、便台にのぼってから、左手で戸をしめる。
6. 便台にまたがり、しゃがんで用を足す。 ・・・・・・・・・・
12. 手は、灰をまぶして3度、土をまぶして3度、最後に橘の実を粉にしたものでもみ洗う。

スペインのお城、アルカサルの「落とす」トイレ、トレドの「投げすてる」トイレ、トイレがなかった!?ヴェルサイユ宮殿、とヨーロッパの昔のトイレ探訪に続き、日本の古いトイレ探検。司書まり子が興味を持ったのが写真上のページ。これは、日本に残るもっとも古いトイレ建築として知られている、京都、大本山東福寺にある「東司(とうす)」と呼ばれる建物で、お坊さんが厳しい決まりに副って用を足す、いわばマニュアルである。はら さんぺい氏のイラストに導かれて、イメージトレーニングしながら読む。何かに似ている…と思ったら、茶道のお手前の作法だ。たしかに、用を足すのも大事な稽古であり、修行であったのが分かる。

さて、タイトルの「トイレのおかげ」。著者はトイレについて調べていくうちに、さまざまな苦心の末に発達した下水道のおかげで、都市のくらしが支えられていること、必ずしも水洗トイレ=いいトレイではないことなどに思い至り、「どんなトイレがいいか」なんて、簡単に言えなくなった、という。「しいて言えば、その地域のくらしにあったトイレが、一番いいトイレだということでしょうか」「どこのトイレであっても、はずかしがらずにどうどうと」「トイレのおかげで元気に活動できるのですから」と締めくくる。今月の温故知新でトイレに興味を持ったら、こんな1冊も併せていかが?

福音館書店が1985年4月から発売している月刊科学絵本『たくさんのふしぎ』シリーズの中から、人気のあった作品が『たくさんのふしぎ傑作集』として発行されている。本書は、1996年12月発行、傑作集は2007年に発行。

森枝雄司(もりえだゆうじ)
1958年熊本県生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。出版社勤務を経てブックデザイナーとして独立。主な著書に『バルセロナ建築たんけん』(福音館書店)など。
はら さんぺい
1953年愛知県生まれ。出版社編集部金部を経て独立。

福音館書店・本体1300円+税

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