まりも図書館

2月の1冊

「春を恨んだりはしない 震災をめぐって考えたこと」 池澤夏樹

2016年2月26日更新

「春を恨んだりはしない 震災をめぐって考えたこと

池澤夏樹

まもなくあれから5度目の春がやってくる。2011年の夏の終わりに手にとったこの本を、桜の季節の前に読み返すのが、司書まり子のささやかな追悼と春を迎える儀式の1つとなった。「ぼくは震災の全体像を描きたかった。自然の脅威から、社会の非力を経て、一人一人の被災者の悲嘆、支援に奔走する人たちの努力などの全部を書きたかった」という池澤夏樹氏の思索の記録を、早春のまりも図書館の棚にもそっと置きたい。机上ではなく、瓦礫の原での思索の言葉を。

春を恨んでもいいのだろう。自然を人間の方に力いっぱい引き寄せて、自然の中に人格か神格を認めて、話し掛けることができる相手として遇する。それが人間のやり方であり、それでこそ—————

震災の日の午後、著者は札幌の自宅を離れて四国を旅していた。いかにも春らしい気持ちのいい午後。吉野川の河口でその年初めてのウグイスの声を聞き、野鳥好きの友人にメールする。後になってみると、そのメール時間が地震の時間だったという。(3 あの日、あの後の日々)。被災地に幾度も行き、ボランティアをし、4月7日の最大余震(マグニチュード7.4、震度6)にも遭う。

その中で、「これまでに考えてきたことをもう一度改めて考えた」。原発の危険について、自然と人間の関係について、ボランティアについて、風力発電について。 タイトルは、ポーランドの詩人、ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩「眺めと別れ」(沼野充義訳)からの引用だという。またやってきたからといって/春を恨んだりはしない/例年のように自分の義務を/果しているからといって/春を責めたりはしない/わかっている わたしがいくら悲しくても/そのせいで緑の萠えるのが止まったりはしないと

写真は鷲尾和彦氏(1967年兵庫県生まれ)。子どもの写真が多く、池澤氏の結びの1行「こういうことを考えながら、前へ出ようと思う」とともに未来への明るさを感じさせる。

池澤夏樹(いけざわ なつき)
1945年、北海道帯広市生まれ。小学校から後は東京育ち。30代の3年をギリシャで、40-50代の10年を沖縄で、
60代の5年をフランスで過ごして、今は札幌在住。『スティル・ライフ』で中央公論新人賞と芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』
で谷崎潤一郎賞ほか著書、受賞多数。2014年より「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』全30巻に続き、「池澤夏樹=個人編集
日本文学全集」全30巻の刊行を開始。公式サイト「cafe impala」http://www.impala.jp

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