まりも図書館

12月の2冊

「すてきに へんな家」 タイガー立石 作

「楽園のカンヴァス」 原田マハ

2015年12月25日更新

「すてきに へんな家」

タイガー立石 作

たいていの人は、大人になってから家を借りたりつくったりする。だから自ずと、「職場から無理なく通える場所に」とか、「限られた予算で借りたり建てたりできる家」とか、制約がたくさん。子どもの頃に思い描いたような"夢いっぱい"の家をつくるのは、それこそ夢物語。楽しいはずの家さがしや家づくりが、現実の糸でぐるぐる巻きになったり、迷路に陥ったりしたときには、この1冊を開いてみよう。

ドーナツ型の家*

中国の南東部にすむ客家(ハッカ)の人たちの家。まるや4角の家の中には部屋がいっぱいあって、50家族、300人くらいがいっしょにくらしている。みんなしんせきどうし。さびしがりやさんむきのすまい?

*印がついている家はじっさいにたっている。

虎をモチーフにした漫画や絵本・アート作品で知られるタイガー立石が、世界中に実際にたっている家と、作者の想像の世界の家を、緻密かつ伸びやかな筆致で描いている。「つくる人の《願い》をすっきり形にあらわした家は、はじめへんに見えても、やっぱりすてきです。世界じゅうの、そういう《すてきにへんな家》を紹介するのが、この本のやくめです。(本文より)」。キノコ型の家(アメリカ)、鳥の巣型の家(東京・銀座)、かぶと虫型の家(ドイツ)、魔女型の家(アメリカ)とわくわくしながらページをめくる司書まり子の手が止まったのが、上記のドーナツ型の家。円形のドーナツ型廊下を、今日はお祖父ちゃんの部屋へ右回りで行こうか、ちょっと遠回りだけど左回りで行こうか、なんて考えるのも楽しそう。周囲の美しい棚田を、親戚みんなで協力して守っているのだろうか。

最後のページにある作者のメッセージから。「家は、人が生まれてから死をむかえるまでの一生をつつみこんでくれる、たいせつないれものです。《世界にひとりしかいない自分(とその家族)》の、だいじないれものなのです。家は、《この世界にすがたをあらわしたもうひとつの自分》といえるかもしれません。」

福音館書店が1985年4月から発売している月刊科学絵本『たくさんのふしぎ』シリーズの中から、人気のあった作品が『たくさんのふしぎ傑作集』として発行されている。本書は、1988年9月初出、1992年に傑作集。

タイガー立石(タイガーたていし)
1941年生まれ。福岡県伊田町(現田川市)出身。69年、イタリアのミラノに移り、ヨーロッパ各地で個展を開く。82年帰国、漫画や絵本、陶彫など多彩に活動。1998年4月没。

福音館書店・(版元品切れ、重版予定なし)

「楽園のカンヴァス」

原田 マハ著

当キャンパスの「こう住む、ああ住む」ゼミナール風にいえば、同じ本好きのなかにも、話題本派 vs マイ本棚派とでもよべる「派」があるように思う。映画化されたり、大きな賞をとったりすれば間髪入れずに読破する話題本派に対して、マイ本棚派は、あくまでも自分の中の機が熟しているかどうかがその本を読むタイミング。典型的マイ本棚派の司書まり子が、今年最後にご紹介する1冊は、2012年に山本周五郎賞を受賞した原田 マハ著『楽園のカンヴァス』。

第六章 楽園

たわわに実るオレンジやバナナ、咲き乱れる名も知らぬ花々、息が詰まるほど甘い香り。こんもりと溢れる緑の森の中に、その日もまた、ヤドヴィガは迷いこんでおりました。
「どこなの、アンリ?」ヤドヴィガは大声で画家の名を呼びます。「ちっとも見えないよ、シダの葉が・・・

物語は、2000年の大原美術館から始まる。そこで監視員(セキュリティスタッフ)として働く43歳の早川織絵は、かつてアンリ・ルソー研究の第一人者として、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーター、ティム・ブラウンと2人、スイス・バーゼルの伝説のコレクターの大邸宅へ招かれる。そこで、彼らに与えられた使命は、MoMAにあるルソーの最晩年の代表作『夢』に酷似した作品、その名も『夢をみた』が、真作か贋作かを判断すること。期限は7日間。手がかりになる1冊の古書には七章からなる物語が書いてあり、それを1日一章ずつ読む、というものだった—————

上の頁は、その六章目。写真ではわかりづらいが、古書の部分は本文より太めの明朝が使われ、文体も古風で、読者も織絵やティムになった気分で引き込まれる。
1冊の本を読みながら、2つの物語を同時進行で読んでいく仕掛けが楽しい。
古書の方の物語は、61歳になった売れない画家ルソーと、ルソーが思いを寄せる若い洗濯女ヤドヴィガ、彼女の夫でルソーの不思議な画才と情熱を早くから見抜いていたジョセフ、そこに、かのパブロ・ピカソがからんで、ヤドヴィガがルソーのモデルになるまでの物語がミステリー仕立てで進行していく。
ピカソが洗濯女ヤドヴィガに粋なことを言う。「本気であの人の(ルソーの)女神(ミューズ)になって、それであんたは、永遠を生きればいい」

著者の原田マハさんは、総合商社、美術館設立準備室、ニューヨーク近代館勤務を経て、フリーのキュレーターとなり、その後作家に。2005年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞。主人公、織絵の「美術館は友だちの家みたいなもの」というのは、作者の思いそのものだろう。暖かい部屋で、ドイツワイン、それもリースリングを飲みながら、できれば7日間もかけずに一気に読みたい。リースリングが気になる方はぜひ、一読を。
新潮文庫・670円(税別)

ようこそ、マリモリビングオープンキャンパスへ学長メッセージ 開校のごあいさつ