ゼミナール

「五感インテリア」ゼミナール

温故知新のインテリア ④

家で「暗闇」を楽しむ

2016年6月1日更新

蛍狩りに七夕、夏祭り、花火や送り火。
これから夏にかけて、
夜のイベントが増える季節です。

おうちの中でも、いつもの照明を消して
初夏の「暗闇」を楽しんでみませんか。
ふだんと違う五感が目覚めるかも?

闇を失った現代日本の住宅

海外に行った時、なんだか夜の「色」が違うなあ、と思われたことはありませんか?

日本の街は光に満ちあふれ、まるで真昼のように明るく、全体的に白い印象です。それに比べて、アジアやヨーロッパなどの夜の風景は、オレンジ色の街灯が基調で、柔らかな陰影に縁どられた町の風情が異国情緒をかきたてます。石畳や建物の影にも、重たい闇が溜まっているような感じがあります。

スペインのマドリッドで、宿泊した時のこと。ホテルなのに驚くほど照明が薄暗く、階段も足探り、自分の部屋の鍵穴も手探りでさがすほど。とても不便でしたが、あの夜の記憶は闇と結びついて強烈に残っていて、ああ、レンブラントの光と影は、こういう日常的な闇の中から生まれたのか、と想像をかきたてられました。

それに比べて、現代の日本は、夜、ものが見えなくて不便を感じる、ということがほとんどありません。都会はもちろん、かなり田舎に行っても、街灯や自動販売機が煌々と照らされています。

家の中も同じです。夜おうちに帰ると、最初にパチンと電灯をつける、という方がほとんどでしょう。何時になっても、まるで真昼と同じように行動できます。

これは一見、便利なことのようですが、本来、自然のリズムと共に生きている人間の体内時計が、連日「時差ボケ」になっているともいえます。自分で時間をコントロールしているように見えますが、結果的に太陽や月の運行を無視し、季節や1日の流れとうまく調和できず、知らず知らずのうちにストレスになっているかもしれません。

家の中から「闇」が奪われたことで、便利さと引き換えに、何か大切なものが失われていないでしょうか?

闇とたわむれ、闇を味わう日本文化

ところが、日本文化を紐解くと、古来日本人は、闇とともに暮らし、闇を楽しむ豊かな文化をもっていたようなのです。

夜の山や町を歩く「ナイトウォーク」の闇歩きガイドとしても活躍されている中野純氏の『「闇学」入門』には、日本文化と闇の密接な関係について、詳しく語られています。

それによると、江戸時代やそれ以前の庶民は、「ふつうの日には、我が家の闇に身を浸して眠りに就く。そして特別な夜には、いろんな闇へ繰り出して闇に親しみ闇と遊んだ」と書かれています。
「闇に親しみ闇と遊んだ」例として、いくつか挙げられています。

◆お祭り (昔はお祭りは基本的に夜やるものだった)
◆月待 (つきまち/集まって月の出を待つ)
◆日待 (ひまち/集まって徹夜で日の出を待つ)
◆庚申待 (こうしんまち/六十日に一度の庚申の日に集まって徹夜で健康を願う)
◆蛍狩り (蛍の光を見物しに出かけ、捕まえて持ち帰る)
◆虫聴き (夜の野山へ行き、秋の虫の音を楽しむ)
◆花火 (線香花火などは江戸初期から盛んになり、花火大会は江戸中期から盛ん)
◆夜桜 (夜桜見物は江戸時代から広まった)
◆講中登山 (こうじゅうとざん/集団で夜明け前に登りご来光を拝む)
◆百物語 (闇の部屋に集まり、百の怪談を語る)
◆通夜 (死者に付き添って夜を明かすものだけでなく、神仏への祈願、祈祷のためにお堂で徹夜する通夜も盛んだった)

これを見ると、まさに季節ごとのハイライトを闇の中で楽しみ、非日常的な時間の中で、闇そのものを楽しんでいた様子が想像されます。

中野氏は本の中で「闇と親しむことこそが、自然と親しむ心を育んだ。そうして昔の日本人は今よりもずっと暗闇に親しみ、暗闇で培われた五感で自然を愛し、豊かな文化をつくり出していたのだ」と書かれています。

特徴的なのは、ご近所さんで集まって皆で暗闇を楽しんでいたこと。テレビやゲームやスマホなどのない時代の最大のレジャーであり、コミュニケーションを深める演出として「闇」が使われていたように思えます。

自宅で「暗闇ナイト」を楽しむアイデア

闇を愛し、闇とたわむれる風習を持っていたご先祖様のDNAは、現代の私たちにも流れているはず。ぜひ自宅でも「暗闇」を楽しむ日をつくってみてはいかがでしょう?

たとえば満月の夜、おうちの蛍光灯を全部消して、ベランダやお庭で月光浴をしてみたり。食卓にキャンドルだけ灯してワインを楽しんでみたり。ワインの芳醇な香りやのどごし、グラスに当たる唇の感触などが、いつもより鮮明に感じられるかもしれません。

お風呂に、ちょっと贅沢な入浴剤を入れて、アロマキャンドルだけでゆっくり時間を過ごすのも素敵ですね。ゆらめく灯りと立ちこめる香りで全身が癒されそうです。

家じゅうの電気を消せば、わずかな灯りのまわりに家族が集まってきます。お子さんがいる方は、子供部屋で小さなランプだけつけて、いつもと違う話をしてみたり。あるいは、"闇鍋"ならぬ、"闇マカロン"などで、舌と香りだけを頼りに味を当てっこするのも楽しいかもしれません。

特別どこかにお出かけしたり、お金をかけたりしなくても、おうちの中が、エキサイティングなトワイライトゾーンに早変わり。もちろん、TVやスマホなど、外から入ってくるメディアは遮断しましょう。視覚から入ってくる情報が少ないぶん、おのずと他の五感が研ぎ澄まされて、ふだんはスルーしていた自然の音や香り、自分の心の底の気持ちなどに気づくかもしれません。月に一度、あるいは季節ごとにでも、天空のリズムと身体のリズムを調和させて、眠っている感性を引き出してみませんか。

◆引用出典:「闇学」入門 中野純(集英社新書)

Column
暗闇ナイトにおすすめの日
☆満月 6月20日 7月20日 8月18日
神秘的な月光浴が楽しめそう!
☆新月 6月5日 7月4日 8月3日
月に邪魔されず星座を探してみよう!
☆七夕 7月7日(8月の地域もあり)
天の川をはさんで織姫(こと座のベガ)と彦星(わし座のアルタイル)が出会う
☆夏至 6月21日
一年で一番短い夜を味わう
☆天体ショー 7月15~16日
日没後の南の空で、火星、土星、月、アンタレスが接近
8月12~13日
ペルセウス座流星群

☆ちょっとストレスが溜まってるかな…と思う日
☆最近、家族の会話が少ないなあ…と思う日
☆その他、思いついたら、いつでも!

イラスト:平澤朋子 Tomoko Hirasawa

1982年、東京生まれ。武蔵野美術大学卒業後、フリーのイラストレーターとして児童書の挿絵や装画、雑誌、広告など様々な媒体で活動している。挿絵・装画を手がけた主な児童書に、『緑の模様画』『ニルスが出会った物語/全6巻』(以上福音館書店)、『青矢号』(岩波少年文庫)、『世界の果ての魔女学校』『あしながおじさん』(以上講談社)、『わたしちゃん』(小峰書店)、『親子あそびのえほん』(あすなろ書房)などがある。

●ウェブサイト http://studio-dessin.com/

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