ゼミナール

「五感インテリア」ゼミナール

温故知新のインテリア ②

「床の間」という聖域

2015年12月25日更新

早いもので、今年ももう年の瀬。
鏡餅を飾って、おせち料理をつくって、
きちんとお正月を迎えたいけれども、
現代では昔のように鏡餅や生け花を飾れる
床の間も姿を消しつつあります。
たとえ住宅のつくりや暮らし方が変わっても、
目に見えない「文化」は受け継いでいけるはず。
古き床の間にこめられた
日本独自の美意識をひもときながら、
わが家にマイ「聖域」をつくってみませんか?

何もない空間を神聖な場にする日本文化

この頃では「床の間」のない家で育つ子どもたちも増えました。戦後の合理的な「DK」という間取りの考え方が主流になってからは、和室も家族のための居住空間となり、年に幾度かのお客様のためだけに、ひと部屋いつもあけておく、というゆとりはなかなかもてなくなりました。

そもそも「床の間」は、いつ頃からあるのでしょうか?

「床の間」は、正しくは単に「床(とこ)」と言います。古くは南北朝時代に端を発し、近代の茶室文化が熟成する中で、書院造という建築文化とともに、鎌倉時代以降に完成されたようです。主に、お城の広間や、有力者の家臣の邸宅などで、仕える主人をお迎えする客間の上座に設けられました。いえ、「上座に設けられた」というよりも、「床の間がある場所が上座だ」という暗黙のルールを、そこに集まる人全員が了解していた、というのが正しい言い方でしょう。

特別に由緒ある場所というわけでもなく、聖なる物を安置している祭壇だというわけでもなく、ただ柱と床で区切っただけの空間を、その場にいる誰もが「侵せない聖域」だとみなす――そんな何もない「空(くう)の間(ま)」=「空間」を、意識的に配置することで部屋に格式を生み出す、というのは日本独自の文化かもしれません。西洋の「客間」とは大いに違う考え方です。

空間に格式が生まれれば、おのずと秩序が生まれます。一番大切なお客様は、必ず床の間を背にする位置にお迎えします。これは、部屋の最奥だということもありますが、床の間を借景とすることでお客様が一番美しく見える位置、という額縁のような効果もあったのではないでしょうか。時代劇などでも、床の間を背にするお殿様は、まるで一枚の絵のように美しく印象的です。

手づくりの「聖域」で住まいに"格"をつける

「床の間」という小さな空間があるだけで、部屋の中に秩序が生まれ、その部屋の格式も上がる――そんな古来の知恵を、現代の住まいにも取り入れてみませんか。

床の間は、建築様式もさることながら、それ以上に大切なのは、「そこに居合わせた人みんなが、その場を聖域だとみなしている」という精神でした。神社も鳥居やしめなわなど、シンプルなアイテムで空間を区切ることによって聖域を創り出します。この考え方を部屋づくりにも応用してみてはいかがでしょうか?

実際に床の間や和室がなくても、お部屋の一角にちょっとした椅子や小さな棚を置いたりして、家族みんなで(一人暮らしの方はご自分のルールとして)「ここはわが家の聖域」だと決める、たったそれだけで、古き良き時代の床の間文化の再現です。

忙しくて散らかっていたり、物があふれかえって収納で悩んでいても、ここだけは手を触れない、踏み込んではいけない、という空間がひとつあるだけで、身がひきしまる思いがします。特別なスペースがとれない時は、本棚の一段や、キッチンの片隅を利用したり、リビングの一角に直接お気に入りのミニマットを敷いてみるだけでもOK。「このマットを敷いたところが聖域」と決めておけば、持ち運びできる聖域(ポータブル・サンクチュアリ!?)がどこにでも創れます。趣味の飾り棚とはひとあじ違って、何の目的もない、ある意味で非生産的な空間を、家の中にあえて創るのは粋なものです。

もちろん、床の間と同じく、季節のお花を飾ったり、背景に絵を飾ったり、わが家のお宝を置くのもいいですね。今の時期なら鏡餅、というように、歳時記にちなんだものを飾るのも一興。「次は何を飾ろうかな」という楽しみも増えそう。「家が片づいていないからお客様が呼べない」なんて難しく考えないで、いつもの空間にさりげなく格式を添えて、季節の話題づくりで、さりげないおもてなしもできそうです

Column

ちなみに、鏡餅は31日の土壇場に飾るのは「一夜餅」といってNG。29日も「苦を重ねる」ということで避けた方がいいとか。28日は「8」が末広がりを連想させるので、良い日とされています(ただし、地域や宗教によってしきたりが違う場合もあります)。早めに飾ってもかまいませんが、クリスマスの後で大晦日の前である28日はおすすめの日です。鏡開きは1月11日。お雑煮やおしるこにして食べることで、神様の霊力を分けていただき、新しい年の活力とします。

小さな聖域を清めて、心新たに清々しく、どうぞよいお年をお迎えください。

イラスト:平澤朋子 Tomoko Hirasawa

1982年、東京生まれ。武蔵野美術大学卒業後、フリーのイラストレーターとして児童書の挿絵や装画、雑誌、広告など様々な媒体で活動している。挿絵・装画を手がけた主な児童書に、『緑の模様画』『ニルスが出会った物語/全6巻』(以上福音館書店)、『青矢号』(岩波少年文庫)、『世界の果ての魔女学校』『あしながおじさん』(以上講談社)、『わたしちゃん』(小峰書店)、『親子あそびのえほん』(あすなろ書房)などがある。

●ウェブサイト http://studio-dessin.com/

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