ゼミナール

「五感インテリア」ゼミナール

もっと豊かに「香り生活」 ⑥

ワイングラスの老舗、リーデルで教わる
「グラスと香りの関係」

2017年3月1日更新

膨らみのあるグラス、縦長のグラス
先が広いもの、すぼまったもの。
ワイングラスのサイズや形が
こんなにも多様なのはなぜ?
世界で初めてぶどう品種別のグラスを生み出した
リーデルで謎に迫ってみましょう。

ずらりと並んだワイングラスだけでも約160種類。それは「リーデルが選んだものではなく、ワイン生産者が選んだもの」。リーデル青山本店にて。

ぶどう品種や産地が持つ個性(キャラクター)を再現する
いわばスピーカーの役目がワイングラス

香りに酔う、という言葉がありますが、ワインもまたその言葉にふさわしい飲み物。

コルクを開栓し、グラスに注がれたワインに鼻を近づけ、グラスをくるくるスワリングして(揺すり回して)さらに立ち上る香りを嗅ぐ。これでワインの香りを100パーセント堪能できていると思っていたけれど、実はこの時グラスが合ってなかったり、嗅ぎ方のフォームを間違えたりした場合は、ワインの持つ素晴らしい香りの一部しか楽しみきれていないことに———

そう教えてくださるのは、リーデル社のチーフ グラスエデュケイターの庄司大輔さん。
「そのワインがいい状態で、適正な温度で注がれたとしましょう。白ワインでもシャンパンでも日本人は概して冷やしすぎと言われますが、低い温度ですと香りが立ちにくく、かといって高い温度ではアルコールだけが強調されます。

ワインの状態が良好で、温度も適正。最後に重要なのがグラスです。ワインには特有のキャラクターがあります。そもそも、ぶどうから作ったお酒になぜかグレープフールツの香りがしたり、りんごの香りがしたり。不思議だし面白いですよね。いわゆる価格の高いワインは、このキャラクターがはっきりしています。反対にお手頃価格のデイリーなワインは、万人に受け入れられやすい"当たりさわりのない無難なキャラクター"のワインとも言えます」

素晴らしく偉大なピノ・ノワールのためのグラス。「ピノ・ノワール グラン クリュ」

ワインのキャラクターに一番強く反映されるのが「ぶどう品種」。そこに着目したリーデル社の10代目ゲオルグ・リーデルが世界で初めてぶどう品種別のワイングラスを発表したのが、1973年。スタート時の10種類から今では、同じぶどうの品種でも生産地別も含めて約160種類のグラスが生み出されています。

リーデル青山本店の店内にずらりと並んだグラスの中で、ひときわ目を引く大ぶりなワイングラス。ロマネ・コンティなどピノ・ノワール種の頂点のためのグラスです。容量が1リットル以上あり、ワインボトル1本が入ってしまう大きさ。

「グラスがこれほど大きいのは、偉大なワインの香りを解きほぐすとともに、その香りを溜め込んで感じるためです。このグラスに約1割だけ注ぎます。上まで入れてしまうと香りがとても弱くなってしまうのです。家にもゆったりとした空間が必要なのと同じですよね。いちばん太いところから指2本分下にワインの液面がくるように注ぐ、というのがセオリーです」

「ピノ・ノワール用のグラスは膨らみが大きくて、飲み口がすぼまっているのが特徴です。そしてこのグラスの場合は上のくびれの部分に注目してください(写真左)。くびれの部分が丘になりますので、この傾きではワインは口の中に流れてきませんね(写真中)。もっともっと傾けて、やっと丘を越えて‥‥少しだけするっと流れる。下を向いたままでは飲めません。このグラスでワインを飲む唯一の方法は、(写真右)の角度までグラスを傾けること。ワインは舌の上を狭い幅でするすると喉の奥へ流れていきますから、ピノ・ノワールの個性である酸味が舌の上で広がらず、やわらぐといいますか。百聞は一見にしかず、後ほどグラステイスティングで実際に感じてみてください」

なるほど。グラスのボールの形状によって、ワインの舌への流れ方、流れるスピード、言い換えるとワインと舌との出会い方が自ずと決められるということなのですね。少しわかってきました。

またワインの香りを嗅ぐときにはフォームも大切で、"損する嗅ぎ方"があるそうです。
「特に女性の方に多いのですが、鼻の下にそっと近づけてグラスを少しだけ左右に揺するくらいで香りを嗅ぐ方(写真左)。私たちは、ああ、もったいないなと(笑)。横から見るとよくおわかりでしょう。香りはグラスの口から逃げてしまいますので、これでは100の香りうち50くらいしか感じられません。しっかりと鼻でグラスに蓋をするように嗅ぐと(写真右)、ワインの発している香りを100パーセント楽しむことができます」

ワインソムリエのテイスティングには色、香り、温度、味わいといろいろ評価のポイントがありますが、そのうち、6、7割が香りだと言われているそうです。中には利き鼻というのがある人もあるとか。それほどワインにとって香りは重要な要素なのです。

適正なグラスを選ぶことの大切さを、先のゲオルグ・リーデルはこう表現しているとか。「名指揮者によって素晴らしいコンサートホールで録音された1枚のCD。ワインとグラスが合っていない状態は、この音楽をチープな"スピーカー"で聴くようなもの。コンサートホールで録った時のままの音楽を"再現"すべきなのだ」

"グラスを変えるとワインが変わる"を
グラステイスティングで実感

リーデル社は世界中で、グラスの形がどれほど重要なのかを伝えるために、グラステイスティングを行なっています。

「香りは可視化するのが難しいので、まずは飲み比べてみていただくのが一番いいのです。1種類のワインを、そのために作られたグラスと、もっとも合わないだろうなと私たちが考えるグラスとで飲み比べていただきます。もちろんリーデル社の"正しい"が自分にとっての好みと違う場合もあります。まずは、グラスによって香りや味わいが違うのだ、ということを知っていただくためのテイスティングです」

では試してみましょう。

4つのグラスを使う「ベーシックコース」を体験。左手前の小さなグラスは比較用で、香りも逃げてしまいこもらない。まずは酸味のしっかりしたリースリングを左端の「リースリング」グラスと、隣の「オークドシャルドネ」グラスへ。

スワリング(グラスを回すこと)するときには、台座をしっかり手のひらに当てて、ステム(脚)に指を添えます。ステムの上の方を指でつまむように持つと軸がぶれてしまいます。

頭を回すようにスワリングすると、グラスの内側にワインの幕ができ、空気と触れて液体の中に含まれている香り分子が出てきます。

リースリング用のグラスで飲むと、甘酸っぱい香りがしっかり感じられます。飲むときには自然と顔が上向きになり、ワインと舌の先端が触れ合います。一方、同じワインを「オークドシャルドネ」グラスで比べてみる庄司さん。「リースリングのグラスほど香りが感じられず、何か物足りない感じがするのではないでしょうか。こちらのグラスは同じ白でも樽の香りがするような、こってりした白ワインに向いています。さまざまな複雑な香りを解きほぐして楽しむような、そういうワインに合います」

次に赤ワイン用の2つのグラスで「ピノ・ノワール」を比較してみます。こちらは香りの比較と同時に、ちょっと面白い実験を。(写真左)は「オールドワールド ピノ・ノワール」グラスです。(世界の多くの国と地域でワインが造られるようになり、個性も違うので、同じピノ・ノワールでもフランス、イタリア、ドイツなどはオールドワールド、カリフォルニア、ニュージーランドなど新世界と呼ばれる産地はニューワールドと区別されています。それぞれのカテゴリー特有のキャラクターを反映して、最もマッチするワイングラスも違っている)

「ピノ・ノワール」のグラスに適正量を入れてグラスを傾けてもこぼれませんが(写真左)、同量を「カベルネ/メルロー」グラス(ボルドー用グラス)に移し替えてグラスを傾けると、水平に置く前にこぼれてしまい、見た目以上にグラスの膨らみ具合が違うことが実感されます。

適正量のワインを入れて傾けた「ピノ・ノワール」グラスと、同量を移し替えたボルドー用グラス。
「酸味の強いピノ・ノワールをボルドー用で飲むと、舌の上で広がり、舌の両サイドに流れて酸っぱく感じます。世界で一番売れているのはボルドー用グラスですが、もしもボルドー用グラスでピノ・ノワールワインを飲んで、"ピノって酸っぱくて嫌い"と思われてしまったらとても残念です」

「万能のグラスはないのですか?というご質問をよく受けますが、残念ながらありません。この4つのタイプを持っていただくと、色々なワインが楽しめます。私は赤ワインしか飲まない、という方は赤ワインの2つのタイプをお持ちになるといいと思います」

香りと色をもっと楽しむために
自宅でも気軽のデカンタを

デカンタが豊富にそろっているのも印象的です。日本の家庭ではあまり使われないようですが‥‥。「ヨーロッパではボトルのままテーブルへというのは無粋と考えられていて、必ずデカンタへ移します。ひとつには長期熟成のワインの澱(おり)を取り除くため、もうひとつは若いワインを空気に触れさせて、香りを立たせるためです。また、デカンタに入れてテーブルに置けば、ボトルでは見えないワインの色も楽しむことができます」。

シンプルでお手頃価格のものもあるので、ワインの色と香りをもっと楽しむためにご家庭でもデカンタを使ってみてはいかがでしょう。テーブルに立ち上る香りは、まさに、五感インテリアです。

庄司大輔さん
テイスティングマネージャー
チーフ グラスエデュケイター
JSA認定ソムリエ

リーデル青山本店

東京都港区南青山1-1-1 青山ツインタワー東館1F
http://www.riedel.co.jp

取材:2017年2月
撮影:狩野 吉和(株式会社 フレンズ)

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