ゼミナール

「五感インテリア」ゼミナール

もっと豊かに「香り生活」 ③

岡本翔子さん特別インタビュー
モロッコの豊かな香り文化

2016年2月26日更新

2月から3月にかけて
古都フェズの旧市街を散策していると
どこからともなく漂う甘く芳しいネロリの香り。
誘われるままに迷路を進むと
辿り着く先には、真っ白いビターオレンジの花がカゴに盛られている

そして5月のほんの2、3週間————
"バラの谷"で朝摘みされるダマスクローズ
蒸溜され希少なローズウォーターとして滴る。
心理占星学研究家でモロッコ通の
岡本翔子さんに聞く、モロッコの豊かな香り文化。

岡本翔子さんのプロフィールはこちらから

ローズウォーター用に朝摘みされるのは八分咲きのバラ。つぼみは天日干しにしてポプリに。モロッコのお皿との組み合わせは美しく、さわやかな香りが漂う。

インタビューその前に① 岡本翔子さんとモロッコ

20代で英国に渡り、ロンドンにある英国占星術協会で心理占星学を学んだ岡本翔子さん。帰国後は女性誌の星占いなどで連載を手がける中で、占星術のルーツである地中海沿岸の国々への興味が増し、諸国を旅するうちに、やがてアラブ圏やイスラム文化に惹きつけられていきます。最初に岡本さんを惹きつけたのはエジプト。「ヒエログリフ(古代エジプト象形文字)をやりたかった」けれど、仕事の忙しさから挫折。そして40代になり、「面白い家を建てたいな」と思っていたときに一目惚れしたのが、『Moroccan Interior』(TASCHEN)。モロッコまで建築やインテリアを見に行きモロッコ風の別荘を建てた後も、しばしばモロッコを旅し、ついにはマラケシュにアパートメントを借りて年に2か月程はモロッコで過ごすまでに————

奥へ奥へと誘われる。
文化も香りも、それがモロッコっぽいと思います

昨年の5月、満月の日にバラを摘みに行きました。マラケシュから私の大好きなサハラ砂漠へ向かう途中に、"バラの谷"と呼ばれている町があります。その一帯だけが緑豊かで、というのはかつてその地に川があり、そのおかげで集落ができ、農業が発展したそうです。作物などが盗まれないようにバラの生け垣を作ったというのが、この土地にダマスクローズが根づいた始まりなんですって。(注:ダマスクローズは2万種もあるバラの中で、最も香り高いとされるバラ)

最初の頃はあまり興味がなかったんです。というのも街道沿いのお土産物屋さんにローズ石鹸やローズウォーターを売っているんだけれど、それが毒々しいピンク色で、値段も安くて、どう見ても嘘っぽい。でも、サハラ砂漠への行き帰りに何度も通るうちに、4〜5月に限り、街道沿いのバラの畑にダマスクローズの可憐な花が咲いているのに気づいて。車から降りてバラの畑を散策してみると、畑の奥では見たこともないような大量のバラが収穫されていたりする。さらに奥へ奥へと進むと、バラを蒸溜する工場を発見したりして……、奥が深い世界なんですよ。この"バラの谷"でローズウォーターを作っている会社とのご縁もあって、そんな素晴らしい香りの世界をのぞき見ることができました。

そうしたところも、とてもモロッコらしいと思います。見かけは安っぽかったり、嘘くさかったりするんですけど、奥へ入るにつれて、どんどん素晴らしいものが出てくる。たとえばイスラム圏の旧市街(メディナ)は城壁に囲まれていて、街そのものが迷路のよう。本当に素晴らしいものには、一般の観光客はなかなか辿り着けないようになっています。そう、まるでイスラムの女性の肌のように神秘に包まれている。"バラの谷"の香りに通じるものがありますね。

ダマスクローズの花の話に戻りますが、一年のうちたった3週間しか花が咲かないんです。それも早朝の涼しいうちに、八分咲きの花だけを手摘みして、その日のうちに蒸溜します。つぼみはまだ香りが弱いので天日干しにしてポプリに、葉っぱもローズウォーターに青臭い香りが移るので丁寧に取りのぞきます。街道沿いの"なんちゃってローズ石鹸屋さん"からは考えられない世界だと思いませんか?

㈱ナイアードのローズウォーター「朝摘みばら水」は、軽やかで爽やかな香り。摘んだ年ごとの自然を反映するという香りは、まるでワインのよう。

撮影:斎藤順子 ©yolliko saito
"バラの谷"の蒸溜工場で摘んだばかりの八分咲きのばらに埋もれて。うっとりと幸せそうな岡本さんの表情。今年の5月には、旅行社とのコラボで「砂漠とバラと迷宮のモロッコ」という旅も企画しているそうです。

モロッコでは昔から、特にフェズなどの古都では家庭用の蒸溜器で、バラやビターオレンジ(ネロリ)の花を蒸溜したそうです。お客さまのおもてなしにも、ローズウォーターを振りかけてお迎えしたそうです。

バラだけではなく、ちょうど今の季節、2月から3月にかけてはネロリの香り。メディナを散策しているとどこからともなくこの香りがしてきて、どこ? どこなの? と辿っていくと、ハーブショップに真っ白いビターオレンジの花が山盛りに積んで売られている。日本の自宅で原稿を書いているときも、今の季節にはネロリウォーターを振りかけています。モロッコの町の香りが私の季節の香りになっているようです。

インタビューその前に② 岡本翔子さんとアラビア語

英語で占星学を学んだ岡本さんですが、「イスラム時代の占星術書もいつか読んでみたい」と考えると同時に、『コーラン』の翻訳者でイスラム文化を日本に紹介した井筒俊彦氏に傾倒して、アラビア語の習得を決意。「ヒエログリフの二の舞は踏まない!」と猛勉強し、サウジアラビアにある大学の東京分校「アラブイスラーム学院」のアラビア語講座に通い、2年半で卒業。月に7本以上の連載を抱えながらの偉業です! が、岡本さんにはアラビア語を使って、たとえばモロッコ雑貨の輸入をしたいとか、そうした実利の目的はなかったようです。

「五感の民」であるモロッコの人々。
日々の生活に自然にハーブを取り入れています

タクシードライバーが教えてくれた、コーランの一節。
「かれらはそこで、生姜を混ぜた杯の飲み物を与えられよう。」
『CREA Traveller』2014春号/岡本さんの記事より

敬愛する井筒俊彦先生が、「アラブの文化は著しく視覚的。砂漠の民は五感に優れた人々であった」というようなことを著作に書いていて、それがひときわ私の心をとらえました。長くモロッコの人々とつき合ってきて、彼らがとても「感覚的」な人々であることを私も感じてきたから。

近年、ハーブと占星術についていろいろ調べる中でも、その思いを強くしました。

3年前には『ハーブ占星術』(エリザベス・ブルーク著)を翻訳、『CREA Traveller』(2014年春号)では、「神秘のモロッコハーブ大全」と題して取材記事を書いたのですが、ハーブの取材をするために、マラケシュから車で約40分のところにあるハーブ園(ウーリカ・ビオ・アロマ庭園)に何度も通いました。そのときに偶然雇ったタクシー運転手が、実は驚くほど植物に詳しくて。彼自身も日常的にあらゆるハーブをお茶にして飲んでいて、「コーランの中に、生姜の効能を説明した章があるんだよ」と教えてくれたりもしました。ごく普通のおじさんが、日常生活にハーブを当たり前のように取り入れている。それは、日本のブームやファッションなどとは違って、コーランの教えに根ざしたものなんですね。

ハーブを調べているときに、こんな面白い発見もありました。モロッコで飲まれているミントティは、清涼感があり夏場の喉の乾きを抑える効果がありますが、反対に冬には体を温める「シバ」というハーブをお茶に入れて飲むんです。シバはアラビア語ですが、英語ではワームウッド、フランス語では? アブサン! そう、あの19世紀のフランス文学にものすごい影響を与えた"緑の魔酒"アブサンの原材料だったんです。ちなみに日本語では、聖書に出てくる「ニガヨモギ」。4つ呼び名をバラバラに知識として蓄えていたことが、あるとき一気につながる。その喜びと興奮といったら!

一見、役に立たない学問でもなんでも、長く続けて蓄えていると、こんな風にいつかぱっと役に立つときがやってくる。面白いですよね。

料理好きの岡本さんは料理にもモロッコの香りや器を愛用。左から、珍しい白のタジン鍋はインテリアとして、房飾り(ポンポン)がついたスパイス、馬のロゴマークで知られるコセマのお皿。

「先日講演会の後で、15年くらい前に書いた『心理占星学入門』という私の著書を持ってきてサインしてください、という若いお嬢さんが。実は母が愛読していたものです、と」。長く続けてきてよかった、と思った瞬間だそうです。

プロフィール

岡本翔子(おかもとしょうこ)
占星術研究家。翻訳家。英国占星術協会会員。ロンドンにある英国占星術協会で、心理学をベースにした占星術を学ぶ。帰国後はカルチャーセンターでの講義や、『CREA』(文藝春秋)など数多くの雑誌で連載を手がけ、日本における心理占星学のパイオニアとして人気を博している。著書・訳書多数。またイスラムの占星術やハーブ、月の暦を探る研究から、モロッコの魅力に開眼。近年はアラビア語を習得し、旅行雑誌でナビゲーターを務めるなど、マルチな才能を発揮している。月の満ち欠けを記した手帳『MOONBOOK』を2004年から毎年、出版している。 13年目に当たる『MOONBOOK2016』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)が好評発売中。 雑誌連載『CREA』(文藝春秋)『美ST』(光文社)『ESSE』(扶桑社)『料理通信』(料理通信社)『CREAWEBー岡本翔子のムーンカレンダー』(文藝春秋)VISAカード誌『はれ予報』(日経BP社)etc

岡本翔子公式サイト
http://www.okamotoshoko.com/
公式ブログ
http://ameblo.jp/okamotoshoko/
facebook 岡本翔子のMoonBook
https://www.facebook.com/moonbook.jp

13冊目の「ムーンブック2016」は判型が大きくなり、手帳として使いやすくなったと好評。

取材:2016年2月
撮影:平山 順一

ようこそ、マリモリビングオープンキャンパスへ学長メッセージ 開校のごあいさつ